「さっきから何を二人してコソコソ喋ってんだよ!?」
いきなり智久が乱入してきた。
「お前、酔ってんな」
焼酎臭い息をして寄り掛かってくる智久を、俺は顔をしかめて押しのけた。
ドン、と自分のグラスを俺のそばに置くと、智久は俺の渋面に気づかないのか再び絡みついてきた。
「今日の主役はお前なのにさあ、ずーっと長門さんと喋りっぱなしじゃねえかよ。んん? そんなに長門さんが気に入ったか?」
「だったらどうだってんだよ、こォの酔っぱらいが!」
俺はすっかり出来上がっている智久に呆れ返った。
「なんだよ、やっぱそうなわけ? 俺、琳とは一番の親友だと思ってたのにさあ、そうやて余所ばっかかまうし、隠し事はされるし、俺なんか全然信用されてなかったのね、シクシク」
「ンなことねえって。…ったく、鬱陶しいなあ、もう」
いつもはそうでもないのに、今日の智久はやけにグチグチ絡んでくる。
「もういいから、これでも飲んどけ」
俺は智久に、酔い覚ましに自分の前にあったウーロン茶を飲ませようとした。これ以上酔っぱらわれると連れて帰るのに苦労する。
「じゃあ、琳も飲め」
「俺はいいよ」
だが、酔った智久はいつにもまして強引だった。
「俺の酒が飲めねえってのか!?」
「何言ってんだか」
俺は仕方なしにグラスを手に取った。喉も渇いてきたし、酔っぱらいに絡まれるのも鬱陶しいのでとりあえず言うことをきいておくフリをするか。
さりげなく今まで自分が飲んでいたウーロン茶を手にする。それは氷が溶けたせいか、かなり透明に近くなっていた。
「ホレ、一気!」
智久の声に、俺は仕方ないなとグッと空けてみせた。
「――!?」
妙な味だった。喉が焼けるような感覚、次いでそれが胃に沁みてじわっと痛む感じが……。
(ヤバイ!)
焦ったが、もう手遅れだ。
「引〜っかかったなァ!」
智久が俺の顔を指差して高笑いならぬバカ笑いをした。
「それはお前が飲んでたウーロン茶じゃなくて、俺がさりげな〜く入れ替えたウーロンハイなんだヨ〜ン!」
(こっの、大馬鹿野郎!)
頭がグラグラする。目が回って、なんだか気持ちがいい。
……瞼が重い……。
「――すいません。ご無理言った上に、面倒までおかけしてしまって……」
どこか遠くで智久の声がする。幾分わざとらしいほど丁寧な口調だな、と俺は呑気に考えていた。
目を瞑っていても、悪友共が戸惑いながら俺を見下ろしているのが感じられる。
(俺、どうしたんだっけ……)
思って、ああそうかとすぐ思い出した。急激な酔いのせいでどうにも目が回って立ち上がれなくなってしまった俺は、仕方がないのでそのままカウンターに俯せて眠ってしまったのだ。
今は、移動させられたのか自分で移ったのかちょっと記憶にないが、長椅子の方に寝かされている様子だった。
「とにかく、未成年をこの状態で帰らせるわけにいかないし、そもそもこれじゃ連れて帰れないだろう」
長門さんの声がする。
俺の意識は半ば覚めかけていたものの、今起きて声をかけられるのが面倒に思えたので目を瞑ったままでいた。
「どうせ明日も暇なんだろう? 今日はもう僕のところに泊めるから、彼の家に連絡だけしてあげて」
「わかりました」
そうこうするうち、がやがやした雰囲気は潮が引くように遠のいていった。
(……そんじゃ、あと頑張ってねー……)
智久のそんな声が聞こえたような気がした。でもさっきとまるで態度が違うのはおかしいから、そんな気がしただけなんだろう。
辺りが静かになるにつれ、俺は再び心地よい眠りの中に沈み込んでいった。