「……おい…琳君、大丈夫? 一応薬用意したから飲んでおいて」
はい、と返事をすると、俺はまずい飲み薬(おそらく二日酔いの薬)を素直に飲み下した。
「なんとか歩けそう?」
はい、と再び返事をすると、俺は長門さんの助けを借りて店の上、このビルの3階にある長門さんの住居へ移動した。
ベッドに横になったところで俺の記憶は一時途切れた。
* * * * * * * * * *
すぐ隣でシャワーを使う音がするのを耳にしながら、俺にベッド占領されて長門さんはどこで寝るんだろう、申し訳ないな、と思った。
* * * * * * * * * *
再び目を覚ましかけたのは、多分真夜中だっただろう。
(……なんだろう、暖かくて気持ちいい…)
夢見心地にそっと誰かに頭を撫でられる感触がした。優しく暖かなその掌に、くすぐったいような安心感を覚える。
それは頬から首筋へと躰の輪郭を辿るようにゆっくり下りていく。俺はぼんやりした意識の底で、この真夏の暑い時期だというのにどうして鬱陶しい感じがしないのかなと不思議がっていた。
Tシャツの下をまさぐられる感覚に伴い、半ば眠ったままの俺の下肢へある予感が湧き起こる。
「……ん……」
(すっげ、気持ちいい……)
唇に柔らかなものが触れ、口腔に自分のものとは違う湿った熱を感じる。
非常にリアルな感覚に身をゆだねながら、俺はまだ「これは夢だ」と思い込んでいた。
(酔って見る夢ってHなのかあ……)
妙に納得している。
だが次第に、これが現実だと自覚せずにいられなくなっていった。お気に入りの曲を最高の状態で歌うときのように、徐々に血が熱くたぎりだす。
緊張と興奮、解放へ向かって昂揚していく何か――
「……ア!」
思わず漏れた自分の声に、俺はハッとして目を見開いた。
――夢ジャナイ?
目を開けた瞬間俺が目にしたのは、カーテン越しに外から漏れるイルミネーションで赤や青に染まった天井だった。次いですぐ、ベッドに横になっている自分の上にのしかかる人物に気づいて身を固くした。
「長門さん!?」
俺の腰の辺りに伏せていた顔をゆっくりと上げ、彼は穏やかな表情でにっこりした。
「…琳君、目が覚めたんだ?」
「あの……何してるんですか?」
このわかりやすい状況で、我ながら間抜けなことを訊いてしまった。
長門さんは俺のことをきゅーっと抱きしめると、耳元にそっと囁いた。
「したい……」
その言葉に俺はギョッと固まってしまった。あまりに突然のことだし、俺は自分が長門さんを好きではあるけれどそこまで考えたことはなかったからだ。
確かに、長門さんからはそれらしい言葉を何度も聞いていたのだが……。
「嫌? そんなことないよね」
「それってどういう……」
言いかけて、俺はいつもとどこか違った様子の長門さんに口をつぐんだ。
見慣れたはずの彼の微笑は、単なる人の良さではない、俺より一回りも大人だということを実感させる余裕を含んでいる。その眼差しは、俺の幼い思考の何もかもを見通しているように感じられた。
「やっぱ若さだよね、あれだけ酔ってたのにちゃんと勃ってるよ」
その言葉にカーッと自分が赤面していくのがわかる。
そうして俺は、自分の中心が弄ばれていることをようやく自覚し、うろたえた。
「な、長門さん……」
「大丈夫、気持ちイイことしかしないから」
長門さんは、まるで子どもをあやすように優しく囁いた。
「いや、あのですね、そういうことでなくて…アッ、ちょっと待っ……何!?」
自分のソコが温かいものに包まれる感触に俺は焦った。
話に聞いたことはあるが――俺は下半身に口をつけるというのは生理的にどうも受け付けられないなと思っていた。だが今、長門さんは何の躊躇もなしに俺のそこを貪っている。
「あ……ウ……」
まだ残っている眠気と酔いで思考回路がうまく働かないまま、俺は長門さんの指先に翻弄される。
行為を続けながら、長門さんは俺の服を器用に脱がせていった。俺は酔いと行為から得る快感と長門さんへの遠慮から、抵抗することをすっかり忘れてされるままになっていた。
胸の上を唇が辿っていく。突起に軽く歯をたてられ、思わず声が漏れる。
変になりそうなほど気持ちが良かった。他人の手によって導き出される、これまで知らなかったその感覚に、俺の中に残っていたためらいが吹き飛んだ。
「う、ク……」
昇りつめていく感覚に、もうすぐ…と思ったところで、すいと長門さんは顔を上げると躰を重ねてきた。やや小柄な長門さんと成長途中の俺はほぼ同じ体格で、そうするとぴったりと合わさる。
そうして片手を添えながら互いを重ねると、猛ったもの同士を擦りあわせるように動き始めた。
「うわ……」
さすがにこれは恥ずかしい。
(何すんだよ、このオヤジは!)
心の中ではそう怒鳴っても、口から漏れるのは違う声だった。
「…あっ……ック、あ!」
人の躰は裏側が弱いと決まっているが、そうやって裏筋を刺激されるともうどうにもならない。――自分で自分を制御できない。
(チクショ…、声、止めらんねえ)
俺の躰は俺の気持ちを置き去りに快楽を貪っていく。
「ふ、う……ヤ、それは……」
長門さんは俺の片足を折り曲げるように上げさせると、前より更に躰を密着させてきた。
長門さんが漏らす声も、次第に追いつめられたものになっていく。
「ん……ウ……」
「…あ……あっ……イッ…」
体内に残っていたアルコールが一気に回っていくようだ。頭の中が真っ白になって、もう何も考えられない。
「…ク、あ……あーっ!!」
きつく瞑った瞼の裏で、星がスパークした。
これまで知っていた数倍の開放感と、同じくらい大きな疲労感が一気に訪れる。
「琳……」
名前を呼ばれるが、とても正気なフリで返事なんかできやしない。
(もういいや、寝ちゃえ……)
躰がだるい。再び瞼が重くなる。
俺は理性も感情もいっしょくたに意識を手放した。