〜 4 〜
「前は俺ほどじゃないにしてももっと力のある魔導師が大勢いたもんだけどな。こういうのは物心付く前からの厳しい修行がいるもんだし、最近の軟弱な奴等はそういうことに耐えられなくなってきたのか、それとも阿呆が増えたのかね?」
だから自分のような力のある者がこのような立場に甘んじているのだ、とでも言いたいのだろう。男はまるで世間話でもするかのように、軽い口調で話すと肩をすくめた。
「えっ、でもそれじゃ……そんな……」
ティングは混乱した。
「本当にそんな何百年もずっとここにいるの?」
「いるんだな、これが。情けないことに」
戸惑うティングに、男は面白そうにニヤニヤする。
「だって、それじゃさっき……洞窟での声とか、…御飯もあるし……」
「飯の心配なんかねえよ。大体が俺みたいな魔導師はそれほど多く消費しなくても何とかなるよう躰ができてるし、必要最小限のエネルギーはこうして摂るからな」
「――アッ!」
突然、ティングは地面(というものがここにあるのならば、だが)に押し倒された。そこへ男が馬乗りになる。
ティングは自分の身に何が起こったのかよく判らないまま、茫然として目の前にある顔を見返した。
「そこらにいるような魔導師だったら今頃とっくにミイラになってるだろうけどな、幸い俺はそこらの魔導師じゃなかったんで、外界との連絡手段を全く取れないほどの封じ込められ方はしなかったってだけの話だよ。こうして抜け出せないほどの封印をされてもなお『外』の様子が判るほどの力を持っていて、なおかつ外からこちらへ入ってくることは案外簡単ときたら、最初の網さえしっかり張っておけば、こうしてお前みたいな獲物を得ることができるって訳だ」
「あっ、やだ!」
言いながら、男はティングの身につけていた布をあっさりと剥ぎ取った。そうして味見するかのように首筋のやわらかな部分をぺろりと舐め、甘噛みする。
「んぅっ…!」
途端に身内を痺れるような疼きが走り、ティングは微かに身震いした。
「あ、あっ……やっ、ア、やだ……やめて……」
あっさりと押さえ込まれ、まるきり手足が動かない。もしかすると魔導の力も多少あるのかもしれない。
されるがままのティングが目に涙を溜めて訴えるが、男は構わず強引にティングの躰を貪りにかかった。鎖骨の窪みを吸い、胸の小さな突起を指先で弄び、柔らかな肉の感触を確かめるように腹を撫でる。
そうしながら、男はまるでここが学塾の教室ででもあるかのように淡々と説明を続けた。
「普通に喰ったんじゃ消化する分のエネルギーを損するからな、より効果的に栄養補給するには、直接そいつの持ってる生命力を吸い込んじまうのが一番だ。どうやるかってのは、まあ魔導師でないと判りづらいが、人だけでなく生き物ってのは目に見えないエネルギーを沢山持ってるんで、そいつを魔導でもって吸い取ってやるわけだ」
「うっ……ン…アッ!!」
下肢へ伸ばされ直接触れてきたため起きた強い刺激に、ティングの躰がビクンと跳ねた。
男はそんな様子を楽しんでいるようだった。嬉しそうに目が細くなる。
「そのエネルギーは体の大きさと必ずしも一致しなくてな、若いやつほど多くのエネルギーを持ってる。といっても赤ん坊なんかはたかが知れてて、ちょうどお前くらいがいいんだな」
「あぅ……あ、アッ……」
話しながらも男の手はティングの上を淫らに這い回り、かき乱す。
「それと重要なのが、個人差以上にこのエネルギーは時と場合に応じて変動するってことなんだ。で、感情が高ぶったときが、最もそいつの生命エネルギーが高まるときなんだよ」
「…ハッ……ア…ア、アアッ……」
何とか男の動きを止めようと、ティングの手が男の腕を掴む。だがその程度のことでは僅かな抵抗にさえならなかった。端から抵抗など無駄だと判ってはいたが、そこには想像以上に圧倒的な力の差があった。
「そんな訳で、せいぜい感じてくれよな」
自分の下でいいように翻弄されるティングを見下ろしながら、フフンと鼻でせせら嗤う。
「俺も長いこと一人で退屈してたし、お前は結構気に入ったしな、そういっぺんには喰わねえようにしてやるからさ」
男は顔をティングの下肢へ近づけると、手の中で震えている小さな突起の先を軽く舐めた。
「アッ!」
「……!?」
もたらされた感触の強さに、ティングが背を小魚のように仰け反らせる。
だが、予想された次の刺激はなかなかやってこなかった。不審に思って見上げると、男は悔しそうな顔で微かに眉を寄せていた。
「…なんだ。お前、清童じゃねぇのか」
そう言うとチッと舌打ちした。
そういえば、彼が要求する生け贄は年端の行かない子どもや少年少女が多い。もう少し上の年齢の方がエネルギーが多そうな気もするが、肉体の穢れも魔導に何か関係あるのかもしれなかった。
それならば、決して清らかではない――どころか、実は汚れきっている自分などあっさり放免されるだろう。
覚悟して来たとはいえ、予想もしていなかった展開に戸惑い怯えていたティングはほっとした。
だが、せっかくの生け贄をそのまま放っておくはずなどない。
「でもやっぱり喰っとこう」
「わっ!」
安堵したのも束の間、またしても男の下に組敷かれた。
男は先ほどよりずっと荒々しくティングを貪ってきた。足の付け根の柔らかな部分へ唇を寄せ、強引にか細い足を広げさせると、ぐいぐいと奥を探ってくる。そうしながら前を刺激することも怠らない。
「あ、あっ……ふ…んっ……」
激しい刺激にティングはこぼれる声を抑えることが出来ない。果てのない空間の向こうへ、ティングの声は端から吸い込まれていく。
そうして高まる毎に、おそらくティングの躰は活力を失い、その分男に力が溜まっていくのだろう。だが実はそのことよりも、ティングにとってはこうした行為を受けること自体が受け入れ難いことだった。
「…は……んっ、ん……あ…や、いやっ……」
ゴツゴツした長い指で躰の奥をまさぐられ、たまらないところを刺激され続ける。いいように翻弄され、わけもなく首を振って必死で堪えるが、沸き起こる快楽は抑えられない。
そうして高まりながら、同じだけティングの心は恐怖で固まっていった。
「いいんだろ? だったらイイ顔してみせろよ」
(よいのだろう? 強情を張らずに悦い顔をしてみせろ)
男のセリフと、ティングの中の昏い記憶が重なった。
「ヤッ……ラムス様ァッ!!」
恐怖の中で、思わずその名を叫んでいた。同時に、ティングは涙を流しながら達した。
躰から、男の重みが消えた。予想していたような脱力感はなかった。ただイった後の軽い怠さがあるだけだ。
「うっ……ふぅっ……」
腕で涙を拭いながら、ティングは荒い呼吸でそっと男を伺い見た。男は醒めた目でティングを見下ろしていた。
「誰のことを考えてたのか知らないが、例え目的がお前のエネルギーを得ることでも、他の奴のこと考えてるのを無理に犯るのはつまらんな」
そう言うと、男はティングから離れて立ち上がった。
どうやら気が削がれたらしい。今度こそ深く安堵する。
「本当言うと、そんなに腹が減ってる訳じゃねぇんだ。こないだ喰ったばっかだしな」
男の言葉に、ティングはふと気づいた。いつの間にか、辺りの様子が変わっている。最初見た通りの何もない真っ白な世界ではあったが、その中にも微妙な地面の隆起が判じられる。
ティング達のいる少し向こうに、乾いた茶色の固まりが所々に覗けているが……あの形…白茶けた小さな物が重なって出来た山は、まさか……!
ティングの視線の先に気づいた男が、口の端に不吉な嗤いを浮かべた。
「下の方はほとんど砂になっちまったけどな、上の方のはまだ何となく形が判るだろう? 丁度お前が来る前に一人頂いたところだ。一回だけであっけなく終わっちまったけどな」
改めて、自分はとんでもないところへ来させられたのだと思い至ってティングは目眩を覚えた。その様子を男は面白そうに見ていた。
「今更なに怯えてんだよ? ここに寄越されるってのは、そういうことだって判ってたはずだろ?」
そう、判っていたのだ。それは男がどのような者であれ、粉うかたなき事実だった。
ティングは知らず縮こまっていた躰を起こすと、意を決したように男と向かい合わせに座り直した。そうして怖々とだが真っ直ぐ男を見上げる。
まだ怯えて躰を固くしたままだが、そうした態度を男は満足そうな顔で見た。
「お前さ、怖がるにしても何か違うな、今までここに送られてきたやつらとさ。自分からってこともないだろうが、無理矢理オレの餌としてここへ放り込まれた訳じゃねぇな?」
ティングは頷いて肯定した。
「お前、変な奴だな」
男はどこか楽しげに見えた。
「一体何があってここに来たんだ?」
「え、何って……」
そんなことを訊かれるとは思ってもみなかったティングは驚き戸惑った。
「暇だからな、ちょっと興味が湧いただけだけどよ。なんか面白い話があるんだったら、喰っちまう前に聞いといてやるよ。頑張って話せばちっとは寿命が延びるぜ?」
男に対して何の対抗手段も持たないティングは話せと言われれば話すしかないが、その経緯は一言では言い難い。どの程度話すべきか考えあぐねていると、男が苛ついたように手を振った。
「ああ、いいよ、そんないちいち口で話さねえで。面倒くせえ、直接お前の記憶を見させてもらうぜ」
男はいきなりティングの額に手を当ててきた。驚いたティングが何か考える間もなく、頭の中を何か異物が這い回るような不快感が起こる。
額から脳の中心にかけて隙間風が通るような奇妙な感覚だった。記憶を直接覗かれていることをまざまざと感じる。強い嫌悪感が沸き起こってきた。
「あ……やだ……」
男は軽く額に触れているだけなのに、ティングはまったく身動きできなくなっていた。そのまま不快感だけが強まっていく。同時に、ティングの脳裏に過去の出来事が再びその身に起こったような感覚が広がり始めた。
嫌な思い出ばかりだった。辛く、哀しいことがたくさんあった。それを全て引き出されていく。
「い…ヤ……アーーッ!」
知らずティングは悲鳴を上げていた。が、その口は徐々に閉じてゆき、恐怖で固まっていた表情もゆっくりと緩んで何の感情も見えなくなった。
やがてティングの自我は消え、膝立ちのまま虚ろな目をして男の下で大人しくなった。
男はそうした反応には一切構わず、掌から発する目に見えぬ波動で少年の脳裏を漁り続けた。
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