White Labyrinth

* 注 意 *
この先はかなりキツいので、苦手な方は適当に飛ばして下さい。
不快な思いをされても責任は取れません!

〜 6 〜

 ――ピチャーン……
 天井から落ちた滴が水面に歪んだ波紋を作る。
 所々に置かれた観葉植物、高い天井、大理石の柱に浴槽。なみなみと湯を湛えた上に撒かれた花弁から、したたるような濃厚な甘い匂いが辺りに漂う。
 贅沢な浴室だった。奴隷が使うものとは思えぬほどだ。
 実際、この館の主人がここを使うこともまれにあるらしい。そんなことにはならないように――ゆったりと湯につかり、一時の安息に手足を伸ばしながら、ティングは願わずにはいられなかった。
 拷問に等しい、いや、むしろ痛みのみを与えられる拷問のほうがずっとマシだとさえ思える辛苦の日々で、唯一僅かながらも気を緩めることが出来るこの場所、この短い一時でさえも安心できないとしたら、自分は本当に気が狂ってしまうかも知れない。
 この館に連れてこられてからの日々は、精神肉体共にあまりにも耐え難い恥辱の日々だった。
 奴隷としてここへ来てまずされたことは、風呂へ入ることだった。ティングを捕らえた男の手で一度躰を洗われ衣服を取り替えてはいたが、それだけでは気に入らなかったらしい。
 館の主人であるザビオン男爵に面通しさせられ、気に入られたようでその場で館入りが決まった。すぐさまこの浴室へ連れて来られ、雑用のために置かれている奴隷達の手で、肌が赤くなるほど徹底的に洗われた。
 ティングにも多少の知識はあった。自分は色小姓になるのか――その考えに、屈辱で躰が震えた。何とか逃げ出せないものかと思ったが、丸二日近く何も口にしていなかったティングの体力で、勝手の分からない広大な屋敷から逃げ出すことはまず不可能だ。
 なんとか隙を見計らうしかない、そのためには今は不本意なことでも堪えなくては――その考えがあまりに甘く浅薄であることは、数日もかけずに判ったが……。
 躰を洗浄したティングが次に連れて行かれたのは、浴室の隣にある小さな部屋だった。中央に小さな石の台が置かれたきりのシンプルな部屋に、ティングは疑念を抱いた。
 ここは一体何のための部屋なのだろう?――その答えはティングが身を持って知ることになった。
 片側が少し平たく顎を支えるような形をした奇妙な首枷を填められ、台に取り付けられている金輪に手首と膝下、足首を固定される。首輪は天井から伸びた鎖に繋がれ、ティングは四つん這いの状態で頭を上げた、おかしな状態のまま身動きができない状態にさせられた。
 これから何が行われるのか、恐怖に青ざめた顔で様子を窺っていると、たっぷりと湯が入った桶を両手に下げた男が小部屋に入ってきた。片方は異国風の奇妙な香りがする薬入りの湯、片方はただの白湯だ。
 ティングを固定し終えた男はその間に、これも奇妙な道具を揃えていた。一つは大きな漏斗で、一つは取っ手のような物が先に付いた管だった。
 どうするのだろうと思っていると、男の手がティングの顔にかけられ、無骨な指で強引に口を開けさせられた。そこへ漏斗が差し込まれる。何をされようとしているのか、この時になってようやくティングは悟った。だが、今更どうしようもない。
 漏斗を通してティングの喉を大量の白湯が流れ落ちていく。激しい吐き気と腹が張り裂けそうな圧倒的な圧迫感に、頭がガンガン鳴り目が霞んだ。口を塞いだ漏斗のために呻くことさえできず、ティングの両目から止めどなく涙が溢れ落ちた。
 容赦なく注ぎ続けられる湯に、このまま腹が裂けて死ぬのか――そう感じたとき、唐突に漏斗が口から抜かれ、首枷の鎖が外された。
「ゲェッ――!!」
 喉を逆流してくる湯をティングは思いきり吐き出した。ティングの口からどくどくと勢い良く湯が流れ落ちていく。何度も噎せて咳込みながら、体内深くまで注ぎ込まれた液体を、僅かに残っていた内容物と共に小部屋の床に撒き散らした。
 涙やいろんなもので顔をぐしゃぐしゃにし、荒い息がようやく少しおさまったころ、ティングは自分の嘔吐したものが部屋の片隅へ流れて消えていくのを見た。小部屋の中は緩やかに傾斜しており、こうして体内を洗浄させられて出た汚物が効率的に処理されるよう作られていた。
 ゾッとした。わざわざこんな部屋を設計してまで人を玩具にしようとする(人間にこんな扱いをするなど、それが下賎の者で自分と同じ人ではないと考えていることが明らかだ、)ザビオン男爵という人物に恐怖を感じた。
 だが、それで終わったわけではなかった。口から注がれた白湯をティングが全て吐き出したと見るや、再び首枷が填められた。次に、未使用だった管を後孔に差し込まれてギョッとした。
 狭い孔に無理矢理異物が埋め込まれていく。痛みと圧迫感に再び涙が滲む。だが、拷問者達の手は容赦なかった。思わず逃げようと躰を動かすと、鎖で繋がれた首枷が引っ張られて首が絞められる。なんとか腰を逃がそうとしても、男二人の手がそれを許さなかった。
 やがてティングの腸内に没薬入りの液体が注ぎ込まれた。
「ウァ……ヒッ…ィ……」
 先ほどと似ているようで異なる圧迫感に、ティングの喉から悲鳴が洩れる。長い管に注げるだけ液体を注ぎ込むと、男は杖のような取っ手を取り、管へ差し入れた。
「アアッ! ウアッ……ヒ…アアァ……」
 思わずティングは首が締まるのもかまわず激しく頭を振って叫んでいた。
 管に押し込まれた取っ手は管の中を塞ぎ、液体を更にティングの体内に押し込んだ。限界を超える大量の液を注ぎ込まれたティングはその猛烈な圧迫感に我を失った。
 脳裏で様々な光が明滅し、囂々と耳鳴りがし、手足が震える。どうしようもない排泄感と嘔吐感に、奇妙な悲鳴は止まらず、躰全体が痙攣し始めた。
 意識を失いかけた瞬間、後孔から管が引き抜かれた。大量の液体と異物が勢い良く流れ出て床を濡らし、部屋に異臭が漂った。台の上で首を吊られながら、ティングは半ば意識を失った。少なくともこの時、正気はなくなっていただろう。
 この『洗浄』という名の拷問は、ティングが朦朧として意識と無意識をさまよう間も、男達の手で淡々と続けられた。
 ティングに時間の感覚はなくなっていたが、ほぼ半日かけてその行為は繰り返されたのだった。最後には、漏斗と管をいっぺんに使われ、ティングは完全に気を失っていた。

 水だけを与えられながらも躰を休めたティングは、次の晩、再び入浴させられ全身に香料を塗られた。既に羞恥心のかけらも無くなるほど痛めつけられていたティングは、さしたる感慨もない。命令されるままに、その豪華な寝室へ行った。
 濃紺を基調に作られた部屋には重厚な造りの天蓋付きベッドが置かれ、足を踏み入れたティングを圧倒した。
 指示された通り、一糸纏わぬ姿でベッドの上で待っていると、ほどなくしてザビオン男爵が現れた。
 部屋に合わせた紺の部屋着をまとったザビオンは、ずんぐりとした厳つい躰付きに、ぎょろりとした目と口から顎へかけて生えた髭が怖ろしげに見えた。浅黒い肌は僅かに赤みがかり、酒が入っている様子が窺える。
 ザビオンはいきなりティングの腕を掴むと、ティングをうつ伏せさせて腰を持ち上げた。双丘を掴まれる感触に、そこを覗かれているのを感じてティングは秘かに眉を顰める。
 ザビオンはそこへ指を差し入れると、感触を確かめるように入口付近をしばらく探っていたが、ベッドサイドの小卓へ手を伸ばして抽斗(ひきだし)から小瓶を取り出した。
 部屋にふわりと甘い香りが広がる。おそらく高価な香料なのだろう。とろりと滴る緩いゼリー状の液を指に取ると、ザビオンはそれをティングの後孔へ塗りこめた。
 行為の間、ティングはひたすら唇を噛んで堪えていた。ザビオンは軍人らしい腕力でティングをまるで赤ん坊のように扱い、前から後ろから好きなだけ攻め続けた。が、ふいに子どもが玩具に飽きたように唐突にティングを離すと部屋から出ていった。
 取り残されたティングは、自分の物ではない体液にまみれてぐったりとベッドへ横たわったまま小さく吐息した。
 思ったほど大したことはなかった――そう考えて、自嘲した。
 自分はもう、ほんの数日前まで当たり前に思っていた平凡で幸福な日々には戻れないのだ…――。
 小部屋で流し尽くしたと思っていた涙が、ティングの頬を濡らしていた。

backnext

back