冬哉くんを落とせ 1


「冬哉。今日ヒマ?」
‥。何? 珍しいじゃん。どうかしたの?」
「一緒に帰ろうと思って。同じ電車だろう」
「えっ、そっそうなの?」
 冬哉の顔は何か思いだしたのか、うっすらと赤くなる。
「だからいいだろう。今日は部活もなくてヒマなんだよ」
「でも狼帝が生徒会終わるのを待ってる約束なんだ」
「そんなにいつもいつも一緒じゃなくてもいいだろうが」
「だって、宿題教えてもらえるんだよ。やってくれるの?」
「うっ、今日出てたのって‥」
「そう、数学」
 残念ながら人に教えるほど得意ではない。しかも彼の言う狼帝、−今の生徒会長−、都築は主席から転がり落ちたことのないくらいに頭がいい。そんな人間と比べられちゃ適わない。
「じゃあ、帰るまではヒマなんだろう?」
「うっうん。ヒマって言えばヒマだけど‥」
「ならちょっと付き合えよ」


 冬哉とは2年生になってから初めて同じクラスになった。みんなが気軽に名前を呼び捨てにするので何の気負いもなく俺もそれに従った。冬哉自体は何って特徴がない普通の奴なんだけど、現会長、会計、そして俺たちが1年のときにいた前会計の都築先輩、超有名人と仲が良くて名前が知られていた。
 そして陰ではそれだけじゃなく、あることでも注目を引く存在だった。
 5月も終わりに近付いて、俺は耐えられなくなって声を掛けた。


「ねえ、。付き合うってどこに?」
「ほら、裏に花壇があるだろう。あそこに種を植えるんだよ。俺正課クラブは園芸なんだ」
「あはは、なんか似合わないなぁ。だって部活はラグビーだろう?」
「えっ、知ってるのか?」
「あっ、うっうん‥。だ、だってラグビー部はさ‥」
 冬哉は言葉を濁す。当たり前だよな。そんなことを堂々と言えるタイプには見えない。それを言い出せばあんなことするタイプにも見えないんだけど。

 皆が帰り支度をする中、俺と冬哉はカバンと上着を机の上に置いたまま校舎の裏へと向かった。掃除当番だった都築に冬哉はきちんと報告する。普通にしてても無愛想で結構きつい顔してるのに、もっときつい瞳で都築には睨まれた。
 こいつは真面目で優等生で通ってるが、怒らせたら恐い‥そう思わせた。少し上から睨まれる視線は酷く気分が悪く、恐いだろうと思ってしまった自分もちょっと情けなくていやだった。
 学校内でラグビー部だと言えば、かなりの無理が通る。それくらいに落ちこぼれで不良の集まりで数はやたらと多かった。ただ学校自体のレベルが非常に高い。だから校内で多少突っ張っていても外では全く通用しない。
 しかし今は校内で、俺はそのラグビー部で、しかも身長だって180あるのだ。その俺をびびらせる優等生な生徒会長、それが都築だった。

「あいつ、見かけよりずっと恐いな」
「何言ってんの。反対だよ。狼帝は見かけよりずっと優しいの」
 少し拗ねた顔をして、自分の友達を庇う。ん? 友達‥なんだろうか。それとも恋人? 男同士で変だが、ちょっと聞いてみたくなる。
「お前らの関係って何?」
「関係って‥。なんかすごそうだけど狼帝とは小学校からの付き合いでずっと1番の親友だよ」
 親友? そう言い切ってしまう冬哉は凄い。あんなことまでしてるのに‥。



 2年になってすぐ、先輩に頼まれた。
、明日の電車番代わってくれ」
「電車番?」
「知ってるだろう? この間卒業した元バレー部のエースで、生徒会で会計までしていた都築先輩」
「はい、顔だけは。えらくいい男っしたね」
「その人が可愛がってる子のお守りだよ」
「お守り〜? うちの学校の奴なんでしょう。女子供じゃあるまいし。それになんで俺なんスか」
「ああ、お前の乗る駅より2つ逆に行ってもらわないといかんが、単車に乗ってるから行けるだろう。で、ガタイがあって電車通学してる奴が他にいなくてよ」
「でもお守りって一体何するんです?」
「ただそばで後ろ向いて立ってるだけでいい」
「ハァ、一体なんスか、それ。しかも何でそんな卒業しちゃった人の言うこと聞かなきゃならないんですか?」
「2年のお前らにはまだ関係ねえが、そのうち分かる。とにかく頼んだぞ」
 先輩は勝手に詳細を説明すると俺に有無を言わさず引き受けさせた。

 そして言われた次の日。電車に乗るともう1人のでかい先輩に引っ張られ、指定場所らしいところに並んで立つ。すぐ後ろには知った顔があった。
「あれっ、都築と冬哉だ」
「こら、黙ってろ」
「何でですか? 同じクラスなんスよ」
「この電車の中では一切知らん顔する約束になってるんだよ」
「約束って?」
「うるせー奴だな。黙って見てやがれ。でもジッと見るんじゃねぇぞ。たまに盗み見するんだ」
 俺は先輩に言われたようにチラチラと後ろを盗み見する。俺の尻の辺りがもぞもぞした。下を見ると都築の手が冬哉のズボンに入り込んでいた。
 はあっ? なっ何やってんだ?
 全神経を傾けて様子を窺っていると冬哉は小さく息を漏らす。ときおり苦しそうに都築の下の名前を呼ぶ。駅を2つ過ぎるといつも俺が乗るところに着いた。

 マジでこの駅は命がけで乗らないとはみ出してしまう。そこへ別嬪だけど気の強そうな女と一緒に、1年のくせに俺より背が高い奴が乗り込んできた。
 ちっ、1年のくせにもう女連れかよ。女は都築の隣にくっつく。あれ、1年の女じゃなかったんかよ。1年は俺たちと冬哉の間に無理やり割り込み、ほとんど抱きしめてると言っていいくらいに冬哉に密着した。冬哉は2人の間に潰れそうなくらいに挟まれている。

「あっ‥んん、鷹‥神。止め‥て」
 かなり押さえてはいたがこれだけ近くにいたのだ。まるでヤってるときの女みたいな普段の声より高い、息が抜けるような冬哉の声が聞こえた。

 ま‥さ‥か‥‥。

 でっ電車の中だぜ。

 しっかりと振り向くと冬哉の足が上がっているのが分かった。
 恐る恐る下から手を伸ばしてみた。
 冬哉の尻は素肌だった。そのうち1年が不自然に腰を動かし出した。暫くすると‥。

「あっ‥あっ、‥イ‥か‥せて」
 冬哉の懇願する声。妙に艶がある。男でもこんな声が出せるんだと思うほど。
 終点に近付くと1年の腰の動きが早くなる。冬哉の声も高まってきてるのが分かる。1年の動きが止まると、都築にしっかりしがみついて顎を仰け反らしてる冬哉が見えた。

 男同士なんて全然興味なかったが、電車を降りるときに見た冬哉の顔は酷く色っぽく、そして40分もやってるそばにいた俺の息子はしっかりと固くなっていた。


 冬哉たちから離れてバスに乗った俺は先輩を問いつめる。
「一体あいつら電車の中で何やってんです?」
「分かっただろう?」
「そっそりゃ、やってることは分かったッス。でも電車の中で、男同士で、しかも2人も相手して。ヤりたいなら家に帰ってからヤりゃいいじゃないッスか」
「あそこまであのガキを手懐けるに苦労したんだよ。都築先輩が惚れ込んでてな。周到に計画を練って手込めにしたんだ。この電車の中でな。だから止められないらしいぞ」
「じゃ、ムリヤリあんな事を?」
「いや、そうじゃねぇ。初めは確かに嫌がってたが、少しずつ、感じるように慣らしていったからな。俺ならまぁ女しか相手しないが、ガツンと一発殴っておいてさっさとヤっちまってるけどよ。都築先輩は気が長くてさ」
「なんでそんな手助けを先輩たちが?」
「俺たちがガードする代わりに部費なんかの工面をしてくれてるんだ。。お前も随分見惚れてたが間違っても手なんか出すなよ。どんな目に遭わされるか分からんからな。実際出しかけて退学させられそうになった奴もいるからな。それに俺たちがそれを知ったらお前に焼き入れなきゃならなくなる」


 初めはなんだかそんな人に狙われてしまった冬哉が可哀相だった。
 それから気になって同じ車両に乗るようになり、ずっと冬哉を見てきた。可哀相と思ったがあれだけ色っぽい顔を見せられるとその考えは間違ってる気がしてきた。
 毎日のように電車の中で犯られてるのに冬哉は都築と仲がいい。合意の上なのか‥。だからあんなに気持ち良さそうにしてるのか。
 都築の方も飽きることなく冬哉とくっついている。まるでお姫様を守るように。だからご褒美にやらせてもらっているのだろうか。それほどヤり心地がいいのだろうか。

 目が離せずにいるといつしか自分が冬哉を犯してみたいと思うようになっていた。自分を都築に当てはめて妄想する。そしてその願望は日に日に強烈になっていった。欲望が増大し、先輩の忠告は俺の頭からすっかり抜け落ちていったのだった。

次へ