先へ飛びたい方用  4話7話10話



休日の過ごし方1

 それは5月の連休のこと。今年は3日間休みがあったんだけど、1日目は先輩の大学の学祭を見て過ごした。狼帝とあちらこちらを回り、先輩にも案内をしてもらったり、春からこの大学に入った美姫さんとも会ったり、忘年会で一緒だったお姉さんたちとも会ったり、結構忙しく一日が過ぎていった。

 さすがに大学。高校とは規模が違う。アイドル系のロックシンガーとかも来ていて凄く楽しかった。
 先輩も本当はバレー部で親善試合をする計画があったらしいんだけど、部長さんが彼女に振られるから頼むから休ませてくれとみんなに泣き付いて、その話しは流れたらしい。彼女は社会人なので、長期のお休みが取れるときがなくて旅行にも行けないと怒ったんだって。
 そんな個人的なことであっさりと試合が1つなくなってしまうってのも高校では考えられないなあ。
 その代わり体育館ではバスケの試合があり、武道場では空手の試合があった。どっちも見応えがあって、いつの間にか手に汗を握って応援してた。バスケは勝ったけど、空手の方は負けだった。
 空手の対戦相手のN大は、やたらと格好いい人がいて女の子のファンがたくさんいた。N大から応援しに来たみたい。でもそれを見てちょっと悔しかった。

 もし‥もし虎王先輩がバレーの試合をしていたら。

 当然体育館は女の子で鈴なりになって、もっともっと大変なことになっていただろうに。なんせ地元だし、高校からの親衛隊も押し寄せてきただろうし。
 ちえっ、先輩が女の子に取られちゃったら面白くはないけれど、先輩より目立ってもてる人がいるのも面白くない。俺の尊敬する先輩はナンバーワンじゃないと似合わない!
 先輩はそんなこと微塵も気にかけてないのに、勝手にライバル心を燃やす俺だった。


 そして次の日の今日。学祭はもう一日あったんだけど、俺と狼帝の中学からの友達がライブハウスデビューするというのでそちらを優先した。高校のある町では、喫茶店を改造したライブハウスとも呼べない小さな所でずっと演奏を続けてきた。今回ようやく空きが出来て応募したら通ったのだ。
 そこは車で2時間は掛かる所で、かなり大きな街である。先輩の車に俺と鷹神と龍将と乗って、狼帝だけは単車で後に続いた。

 そしてまた中野さんの雑貨店に、車と単車と停めさせてもらって歩く。その横を黒ずくめの暴走族がかなりの大群で通る。何故か俺たちの方を見て全員が一礼をしていった。
「なっなんなの」
「さあな」
 後ろを見ても龍将以外誰もいなさそうだったけど、先輩はニヤリとする。

「あ、冬哉。お前ああいう奴らに呼ばれてもホイホイついていくなよ」
「そっそれほどバカじゃないよ」
 もう、小さな子供みたいに言わないでよ。
「バカじゃないならなんで、あのときはついていったんだ。しかも反抗までして」
 狼帝がため息をつきながら、俺の耳を引っ張って顔に手を沿わせる。わ、怒ってる〜。
「だっ‥だってあの時の子は俺よりも小さかったし、不良してるようには見えなかったんだよ。それに別に反抗したんじゃなくて、素直にヤダって、たった1回言っただけなのに‥」
「だがそう言ったから殴られたんだろうが」
「だけど‥言ったと同時くらいだった気がする」
「そこら辺が少しおかしいんだよな。冬哉のこの顔を見て殴ろうと思うなんて」
 狼帝は顔にくっつけたままの手で俺の頬をスリスリする。

「俺の顔、殴りやすかったのかな‥」
 でも後にも先にも殴られたのってあれしかないんだよね。
 怖いとか思う前だったから、思い出して恐怖を感じるとかもないし、痛みもいっぺんに来すぎてよく分かんなかったし。どっちかって言うと腫れが引き出した頃が一番痛かったかも。

「ほら、謝っておけ」
 そしたら虎王先輩がそう言いながら鷹神の背中を叩いた。
「えーっ、王ちゃん黙っててくれるって言ったじゃん。狼ちゃん、冬哉先輩のことになると怖いからなぁ」
 鷹神が拗ねた顔をして虎王先輩に訴える。
「そろそろ時効だろ」
 先輩に頭を抑えられてぐりぐりとかい繰り回される。
 何を突然言い出したんだろう。

「あはは〜‥。あの、狼ちゃん怒んないでね。あいつら、俺のこと目の敵にしてた奴らでさ。俺たちにケンカ売っても敵わないから、まずは王ちゃんに売ろうと思ったんだよ。俺と王ちゃんは仲良かったからね。そしたら睨まれただけでびびっちゃったらしくって。そんでたまたま一緒にいた冬哉先輩が目を付けられちゃったんだよね」
「なんだと」
 珍しく鷹神を睨み付ける狼帝。
「あ、やっぱ怒ってる。俺に回りの者から痛めつけるぞって、ただ脅しかけたかっただけなんだよ。ほら、俺ってもてるから」
「もてるからじゃなくて、見境なかったの間違いだろ」
 龍将から突っ込みが入る。
「お前酷いこと言うね」
「誰が尻ぬぐいしたと思ってるのさ」
「だから悪いって」
 鷹神と龍将の、兄弟ゲンカなのか漫才なのか分からないやりとりを聞いて、狼帝はまたため息をついた。

「そう言うことだったのか。冬哉が簡単に殴られる訳ないよな」
「冬哉先輩もごめん」
「俺って‥鷹神に女の子盗られた相手の怒りをぶつけられたわけ?」
「そうそう、その通り」
 鷹神はナイスって俺を指さす。
「お前ー、全然反省してないだろう」
 狼帝は今度は鷹神の耳を力任せに引っ張った。
「いてて、思いっ切りしてるって。そのあと姉貴も狙われて大変だったから」
 そっか。美姫さんまで巻き込んでたんだ。

「マジで冬哉さんが先に狙われて助かったんだよ。それから美姫ちゃんのことも気を付けていられたから。それまでも気にはしてたんだけどね。美姫ちゃん美人だからさ」
 龍将にそう言われると、役に立ってよかった気がしてくる。
「よかったね。美姫さんに何かあったら怪我じゃ済まなかったかもしれないし」
「冬哉は、まったく‥。よかったじゃないだろう。鷹神も鷹神だ。普段からちゃんとした生活をしてないから周りに迷惑を掛けるんだろうが。それになんでそんなに見境なく‥‥」
 マジで怒ってるなぁ。でもこういう時の狼帝の扱いは任せて。まだまだ続きそうなお説教を前に「ねっ」っと言いながらにっこりと笑いかけた。

 狼帝は律儀だから微笑まれたら微笑み返さないといけないと思ってる。でもそれが上手く出来ないから、ニッコリされると黙っちゃうのだ。
 狼帝が黙ってしまったのを見て、鷹神と龍将が口の中で「おおー」と声をくぐもらせた。
「冬哉、さすがだな」
 虎王先輩が俺の頭を撫でて褒めてくれる。
 だてに親友してないってば。ちょっぴり得意げになる。


 そんな話しをしていたら映画館の前まで歩いていた。すると虎王先輩くらいの背格好で年齢も近い感じの男が2人、怒鳴り合っていた。
「バカヤロ。俺はこれが見たいって言ったじゃねぇか」
「俺はこっちがいいって言ってただろう」
「おめぇ、俺の好きな方でいいって言っただろうが」
「んなこと言う訳ないだろ。本来はお前が、わざわざ付いてきた俺に礼をすべきだろう」
「っだと。勝手に付いてきたくせに礼だと? こっちでならいくらでもしてやるぜ」
 そう言った男がこぶしを突き出した。
「おお、いいぜ。そっちの方が話しが早そうだな」
 そしてその相手の男も構える。

「せっ先輩‥。ケンカが始まるみたい。止めてあげてよ」
 さっきも言われていたヤンキーとか悪そうな人たちなら触らぬ神に祟りなしだけど、普通の大学生みたいだし。二人ともかなり背も高く、虎王先輩くらいはありそうで、しかも格好いい。
 えっ‥。よく見たら。

「ね、あの人たちってN大の空手部?」
「ああ、そうみたいだな」
 先輩、気が付いてたんならもっと早くに止めに入ってくれてもいいのに。面白そうに見てる先輩は止める気がなさそうだ。先輩ならちょっと睨んだら効き目がありそうだったんだけど‥。それに先輩が出て向こうが怖じ気づいたら、先輩の方が格好いいっていう証明になりそうな気がして。でもこうなったら自分でいくしかない。
「こんな所で止めま‥」
 まで言ったら目の前でこぶしが飛んだ。

 うわっ、凄い早くて目が追いつかない。風切り音なのか、こぶしが止まった時の筋肉と腕の音なのか分からないけど、テレビや映画のようにビシッと効果音が聞こえる気がする。
 でもそれを互いに紙一重の所でよけてる。
「すっ‥すごー」
 止めるのも忘れて、思わず見入ってしまった。空手の試合見てるみたい。

 そのうちに観客が集まってきた。一挙一動に声が上がる。

 一人は鷹神のようにあっさり系のハンサムで、サラサラの髪をなびかせて子供番組のヒーローみたいだ。
 もう一人はニヒルって言葉が当てはまるワイルド系のハンサムで、ヒーローってよりは格好いい敵って感じ。
 だからまるで特撮の映画かテレビの収録でもしてるみたい。

 敵が回し蹴りを入れた。マジで危ないって思った時にはヒーローは腕をL字に固めて防御していた。その影からニヤリとする。
「バーカ。そんなワンパタ丸分かり」
 今度はヒーローが顔面を狙ってこぶしを突き出した。一発二発は身体ごと避けていたが三発目は避けきれず当たりそう。思わず顔をしかめてしまう。だけどそれを敵は両手を重ねて受け止める。
「おめぇこそなまってんじゃねぇのか。遅すぎるぜ」
 防御が決まるたびに周りを囲まれてしまった観客からどよめきと拍手が沸き起こった。
 そしてその度に決めた方がひと声かける。それで余計に熱くなるようだった。

「冬哉、もう行こう。遊んでるようだから止めなくても構わないだろう。間に合わなくなるぞ」
 狼帝に声を掛けられても足が動かない。だってこんなに凄いんだもの。目が行かない方がどうかしてる。
 身体が固まったようにまだしばらくそのままでいた。

 すると‥突然後ろから抱き締められた。

 えっ? と思って振り向いたら虎王先輩だった。

「せっ先輩?」

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