嫌いじゃないのに

「おい、しようぜ」
 克海はまた将人の部屋にノックもせずに入り込んで来た。机に向かっていた将人は振り返って文句を言う。
「お前な、何回言ったら分かるんだ。ノックぐらいしろよ。それにこんな真っ昼間から何を言ってるんだ」
 いつもながら克海は、将人の言うことをまったく聞いてない。そのままこっちに歩いて来ると、手にしていた物に気がついた。
「ああ、これか‥」
 説明しようとした口を遮るように塞がれた。
 その手にしていた物は、啓先輩の写真だったのだ。


 将人と克海は血の繋がらない兄弟である。一応将人が兄なのだが、4月生れと3月生れで同じ学年なのだ。
 ある時、将人が啓先輩の写真をおかずにオナニーをしていたところ、それを克海に見られてしまった。そこで何の歯車が狂ってしまったのか、それをネタに克海は将人を無理矢理抱いた。それから半年、ずっとこの関係は続いている。


 口の端から唾液が伝うほど激しいキスをされ、将人の服は剥ぎ取られていく。克海の口が噛み付くように首筋に移動すると、諦めてメガネを外した。
 克海は余りキスをしてこない。それはそうだろう。男が好きなわけではないから。こんな風に将人の小言を封じるときにするぐらいだ。一度離れた唇は二度と戻ってこないのだ。
 将人は口端に伝った物を拭う。何となく物寂しさを感じながら。
 それでも乳首を含まれるとそんな感傷は飛んでいった。
「‥つっ」
 痛いぐらいに強く吸われ、ピンと伸びた背筋が仰け反る。横を向いているので、背もたれから離れている上半身が倒れそうになるところを克海の腕が支える。椅子の上で克海の頭をかき抱く。克海の舌が、負の圧力で突き出した先端を弄ぶ。
「‥あっ‥倒‥れる」
 喘ぎと混じり合った言葉で椅子にいられないことを伝えると、いったん克海は離れた。
 将人はその場で立たされるとジーンズと下着も脱がされ、裸にされた。
「なっ、‥お前も脱げよ」
「必要ないだろ」
 そっけなく要求は却下され、そのままベッドへ押し倒された。
 まだ太陽が光り輝く昼間である。その中で一人だけ裸でいるのはかなりの羞恥を感じる。しかも自分だけが快楽に身を捩っているのだ。
 そんな弄ばれている風なのが絶えられなくて、克海も同じ所に来て欲しくて、言わされ慣れたことを口にする。
「はっ早く‥‥、入れて‥くれ」
 克海はサッと下だけ脱ぐと、張りつめたモノを将人に宛い、押し付けた。ローションを塗られ指でさんざんに嬲られたそこは、あっさりと克海を呑み込んだ。
「ああっ」
 やっと同列になれたことに安堵し、より強い刺激に身体が狂う。
「‥んん‥くっ‥ん」
 出そうと思うわけではないのに、下から押し上げられたモノは口から零れてくる。また零していかないと耐えられない。
「‥は‥ぁ‥」
 中からに加え、自分のモノも扱かれて追い上げられる。
「も‥もう‥イく」
「俺も‥」
 くっと一瞬堪え、そして解放する。この瞬間を味わうために苦しさと表裏一体な感覚を耐えてきたのだ。
 二人してひくつく身体を弛緩させるとピッタリと密着する。隣で突っ伏している克海の頭を撫でた。
「なっなんだよっ」
 克海は怒ったのか、その行為を非難するようなことを言う。そしてあっと言う間に将人から離れ部屋を出ていった。
「やりたいだけ、‥か」
 残された将人はそう呟いた。


 次の日、帰る支度をしていた将人の耳に数人の女子の声が届いた。
「ねぇねぇ、あの子ってちょっと格好いいじゃん」
「いやっ、ほんとだ。工業って言うのも悪そうでいいよね」
「あれっ、前にも来てなかったっけ?」
「マジ?」
「ほんとほんと、いい男は忘れないって」
 気になった将人は女の子達と同じように窓に張り付いた。
 校門に立って異彩を放っていたのは克海だった。
「ちっ、あいつなんでここに」
 思い当たることは一つ。また啓先輩に告げ口する振りをしに来たに違いない。振りと断定したのは言ってしまえば性欲を処理するところがなくなってしまうからだ。
 自分が姿を現さなければ帰らないだろう、将人はそう思い慌てて教室から出た。

 昇降口を出て、校門を見るともう克海の姿はなかった。訝しみながらも走って門まで行くと、啓先輩と一緒に先を歩いている克海が目に入った。
 なぜだろう。自分に思い知らせるためだったのではないのか。なぜ自分と会わずに先輩と一緒にいるのだろう。
 不安で胸焼けがする。どうにも嫌な予感がするが、そうならばなんとしても阻止しなければ‥、将人はそう思うと2人のあとをつけた。
 多少離れてはいるが雰囲気が伝わる。こんなに将人が不安でいるのに、先輩はやけに楽しそうである。もうすぐ受験で、あの大好きだった笑顔が少なくなっていたのに。
 しかも会ったのは2回目だ。そんなにすぐに打ち解けるものだろうか。啓先輩はどちらかと言えば人見知りする方なのに。
 様々な疑問が湧いては消え、消えては湧く。頭の中はぐるぐると渦を巻いていた。

 2人の着いた先は公園だった。人気のない方に向かう。やはり将人の予感通りなのか。
 克海が指を指し、ベンチに腰掛ける。一体初対面に近いような間で、何をそんなに話すことがあるのか。
 将人は植え込みの陰に隠れて様子をうかがう。話の内容まで聞こえないが、変わらずに楽しそうである。それでも克海が少しずつ先輩にすり寄っていくのが分かった。
 そして将人からは克海のしっかりした体で、少し華奢な先輩の体が見えなくなった。頭を付き合わすくらい近寄っている。
 将人はいつ出て行こうかと焦れる。先輩に分かってもらう寸前まで待った方がいいのは明瞭だ。だがもう待つのは限界まで来ていた。

 その時克海が先輩に覆い被さった。
 将人は我を忘れて克海を殴り飛ばしていた。
「克海! 先輩にまで手を出すなっ!」
 自分に飽きてきたのだろうか、それとも初めから啓先輩のことを気に入っていたんだろうか。克海も男が好きだとは知らなかった。
「まっ将人くん。何てことするの。いきなり殴り飛ばすなんて」
「先輩、なに呑気なこと言ってんですか。こういう危ない奴に着いてったらダメでしょう。おかま掘られるところだったんですよ!」
「おっおかま? なんで?」
「今襲われてたじゃないですか」
 言い終わらないうちにいつの間に横にいたのか、将人も克海に殴り返された。
「てめぇ、なに勘違いしてやがんでぇ」
 殴られた頬を押さえながら言い返す。
「先輩にまで手を出すな」
「そんなに先輩が大事かよ」
「当たり前だろう」
「残念だったな。先輩は女が好きだとよ。ほら、こいつと今度会うんだからな」
 克海は落ちていた一枚の写真を拾って将人に見せる。そこには3人の女の子が写っていた。
「この真ん中の奴だよ。啓先輩のタイプだと」
 えっ? 克海が先輩を狙ってたんじゃないのか。もしかして襲ったように見えたのはそれを拾う動作だったのか。
「先輩‥こいつとなんで会ってたんですか?」
「あ‥うん、だから‥恥ずかしいんだけど、受験の励みが欲しくて‥。それで克海くんが紹介してくれるって言うから、終わったら会う約束をしてたんだ」
 照れながら話す先輩はやはり可愛い。今まで彼女が居ないのが不思議なくらいだった。頭もいい、顔もいい、背だって70は超えている。
「T高だって言ったらたくさん女が寄ってきた。そん中で喋らない男でもいいって奴を選んできたんだ」
 ああそうか、やっぱり先輩は初対面の者と話すのは苦手なんだ。
「でもなんで克海がそこまでするんだ?」
 先輩のことは分かったが、克海がなぜそこまで関わるのかが分からない。
「だっ、だってよ。先輩に彼女が出来たら諦めるかと思って」
「だれが?」
 聞いてから先輩が居てまずいことだと気がついた。しかし克海はちゃんと分かっていた。なにも答えなかった。
「お前、もしかして昨日の写真見たからか」
「そうだよ。こんなに毎日‥なのに、将人は‥まだって思ったら。もう忘れてると思ってたんだ」
 克海は顔を赤くして声まで消え入りそうだ。
「お前、やりたいだけじゃなかったのか?」
「俺は男が好きなわけじゃない。そりゃ気持ちに気がついたのは後からだったけど」
 将人の緊張した顔がふっと緩む。
「知ってるか? 馬鹿な子ほど可愛いって」
 克海の胸ぐらを掴むと、唇を合わせた。
「バカッ、将人。先輩が見てるんだぞ」
「いいよ、もう。俺の気持ちだ」
 単純な克海は素直にとても嬉しそうな顔をする。今までお互いに勘違いしていたのだ。

 先輩は将人たちの関係を見ても余り動じていなかった。ただ2人とも凄く好きなんだっていうことは話を聞いてて分かったよ、それだけ言って帰っていった。

「お前いつの間に啓先輩とそんなに仲良くなったんだ?」
「ああ、前に会ったときメルアド聞いてたんだ。メル友って奴だな」
 なんと抜かりない奴。
「将人、お前こそなんで今更先輩の写真見てたんだよ」
「ああ、引き出しの整理してたら出てきたんだ。捨てるとこだったんだぞ。それをたまたま見つけて、しかも俺の話も聞かずに」
 克海の頭を小突いてやる。
 互いに顔を見ると笑いが込み上げる。
「腫れるかな?」
「腫れるだろうな。母さんびっくりするぞ」
「ああ〜」
 突然叫ぶ克海に驚く。
「どうした?」
「やりてぇ〜!」
「馬鹿」
 そうは言ったものの部屋へ着くなりベッドに転がり込む。

 しっかりとキスを交わしながら‥。これから何度唇が重なるだろうか。
 数え切れないだろう、将人はそう思うと暖かいものが胸に広がった。

終わり

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