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「秋山さんなんてキラいですっ!」
とふくらませた頬さえも愛しく思ってしまうなんて、俺もかなり重症だな〜と、秋山は自分自身のことなのにどこか他人事のように、ほぼ漠然と思っていた。
だってさすがに若干ヤリすぎたかと思っていなかったワケじゃない。
けど生モノだったし、ヤリたかったし、ヤリ始めたらつい止まらなくなったしで、つい連続して3回程立て続けにヤってしまった結果、次の日彼女が起きられなくて、半日ベッドのシーツもしくは自分とキスする羽目になっていたことはさすがにマズかったかとは思っていた。
だからあの日以来初めての、5日ぶりの逢瀬となる今日、怒ってるんだろうなとは覚悟していたが、まさか真面目で律儀な彼女がいくら怒っているとはいえ、ろくに挨拶もしてこずに開口一番言ってきたのが『キラい』だったその事実に、秋山はほんのちょっとだけ後悔していた。やっぱり2回で我慢しておけばよかったかもしれないな、なんていう感じに。
でもそれを表には出さない。
いくら見た目が既に改造済みで女の格好をしていても、それでもフクナガはしっかり男だ。それなのにヤツのところに押し掛けて前後不覚になるほど酒をあおるなど無防備にもほどがある。そのこともあの夜の自分の執拗さにしっかり拍車をかけていたのだ。
だから『反省シテマス、ごめんナサイ、モウ2度トッテ言ウト多分嘘ニナルカラ言ワナイケド、出来ルダケモウコンナコトシタリイタシマセン』なんて、嘘も実も多分半分ずつの在り来たりな言葉さえ浮んできては消えていくが、それを言葉にして声にのせ、彼女に伝えるのには些かではない抵抗がある。もしそんなことをしてしまえば、一方的に自分の方が悪いみたいになるからだ。
けれどそんな男のプライドよりも、彼女の『キラい』が心に痛い。
もちろん秋山にだとて彼女が自分に発してきた『きらい』が『嫌い』ではなく『キラい』で、つまり少し拗ねてるだけの、柔らかで優しい拒絶だとちゃんとしっかりわかってるのだ。
それでも心に痛いのは、それだけ彼女を愛してるから────それだけ本当に好きだからだ。
だからせっかくの貴重な逢瀬の時間、多分実際は彼女にとってもクダラナイことに費やしたりなんかしたくなくて、だから『今回は』という、実際はこれまで何度も使ってきた自分自身への免罪符を使って、秋山は直に向かって詫びを口にすることにした。
「ゴメン、調子のってやりすぎた。だから拗ねてそれからふくれてないで、いい加減機嫌直してくれよ」
だがそんな秋山からの精一杯の譲歩を、直はすげなく却下する。
「イヤです」
そう端的に言い切ると、顔をプンと横に振り秋山にそっぽを向いた状態で、さらに続けてこう言い切った。
「本気でそう思ってないのくらい、いくらわたしが鈍くったってそれくらいはわかります。それなのにそんな言葉でごまかそうとする秋山さんはキラいです」
こうなると取り付く島がない。彼女が結構頑固者、それも筋金入りなことは百どころか千は承知だ。
だから秋山は思わず深く息をつき、どうやって機嫌を直させようか、フクナガらには悪魔の脳みそと影で呼ばれているらしいアタマをフル回転させ始めた。
「直────」
けどどうしても上手い方法が見つからなくて、だから秋山はここはあえて正攻法で攻めていくことにした。
「わかった、じゃあ『嫌い』でいい。確かに君の言う通り、俺は君を適当な言葉で丸め込んでしまおうとした、だから『嫌い』でかまわない。それってまったく当然だ。けど」
あえて言葉を区切り直の意識をより自分に引き寄せた後、秋山はあえて疑問系でこう言った。
「そのことも含めて俺は君に謝りたい────謝らせてもらいたいと思ってる。けどそれを君が許してくれないなら、俺だってそんな君のこと『嫌い』になるかもしれないな」
「そんなっ!!」
その言葉に直は慌てる。
秋山からしてみればその言葉は仮定も仮定、それも一千億分の1くらいの低い確率での仮定の言葉だ。けどバカ正直で何でも信じる直にとってそれは恐怖の、絶対に受け入れられない現実だ。
だからそらしていた顔はもちろんのこと身体ごと乗り出すように秋山のそれに向かって向け、どうすればそれを回避出来るか必死になって探ろうとする。
そんな直に向かい秋山は言う。
「じゃあ、どうすればいい?直。どうすればいい?どうすれば君は俺を許してくれる?────俺にそうする機会をくれる?」
「そっ、それは────」
そう言われても答えられない。だってそもそも直にしても本気で怒っていたわけではないのだ。
5日というか6日前の寝込まされるほど美味しく頂かれてしまった時だって、自分が本気で拒んでいたら誰より優しい秋山のこと、きっとやめてくれていたに違いないのだ。
そのことが直にはわかっている、だから怒る筋合いでないことは誰より自分がわかっている。けどわかっているがどうにもこうにも恥ずかしくて、つい拗ねているそして怒っているフリをしていたら、フリがいつしか本気になって本気で怒ってしまっていただけなのだ。
それなのにどうすれば許すか問われても答えられようはずがない。
だから思わず目をうるませて、逆にどうすればいいのかすがるような視線を秋山の方に向けると、秋山はまっすぐに瞳を重ねたまま、直に向かって言葉を続ける。
「君が許してくれるっていうんなら、俺はホント何でもするよ。あの時の、足を嘗めるトコから全部やりなおしてもいい」
途端直の顔どころか、全身くまなく赤くなる。
「えっ!?!」
酔ってはいたがあの時にされたキスの感触はしっかり全部覚えている。甘くてそしてとろけそうで、だから秋山がくれたその感触に酔う為に自分はアルコールがもたらした酔いから意識をしっかり取り戻したのだ。
それなのにそこからやり直してもいいだなんて、しかも────。
「今度はちゃんと下僕らしく、足の指をちゃんと嘗めるよ。それが『正式』────それが『正解』なんだろう?」
それは確かについ先日、秋山に伝えた真実だった。
フクナガにされた入れ知恵の結果、とんでもないことになったから、その苦情をフクナガに漏したところ、フクナガに『バカだねぇ、ナオ!アキヤマごまかしてちゃんと女王様のおみ足を嘗めてなんかないじゃない。それなのにご褒美やっちゃうなんざ、女王様失格だよ』とバカ笑いされ、そこで改めて教えられたことをその日の内に秋山に苦情の電話を入れたのだ。『ウソつき!本当はわたし、秋山さんにご褒美あげる必要なんてなかったみたいじゃないですか!!』と。
どうやら秋山はそのときのただ直が喚き散らしていただけの電話をきちんと聞いており、その通りに実行し直すつもりらしい。
そのことを示唆する言葉と、そしてそれが示す未来に思わず直はその場で跳ねた。
「あっ、秋山さんっ!!」
だが時すでに遅し。
跳ねた拍子に少し浮いた直の足に秋山は恭しく手を伸ばし、直の足を掬い取ると、その甲に優しく口付けた。
「『仰せの通りに、女王様』、貴女が望むそのままに」
「ヒャウッ」
瞬間強く吸い上げられ、いつもは首筋だとか胸元に刻まれる赤い小さな所有の印が、その場に鮮やかに散らされる。
しかも、前回のときそうした通りに秋山はキスしたその場所からそのまま舌をはわせると、そのまま到達した先である足の指先を1本1本丁寧にねぶり始めてしまったのだ。
そのことが直のすべての理性を奪う。
「あっ、あきやまさんッ…!…」
こんなの全然信じられない。自分の足を秋山が嘗めている────自分の足の指なんていう、普通絶対ありえない場所を嘗めている。それも1本1本丁寧に、実に愛おしそうにだ。
それにそればかりではない。そうやって嘗められるその感触が、なんだかすごく気持ちいいのだ。
もちろんそれにはそんな場所を嘗められているという背徳感や、普通嘗めるところではないがゆえにどうしても高く鳴ってしまうピチャピチャというだ液がたてる水音が、より感覚を過敏にして感じさせやすくしていることも一因としてはあるだろう。
けれどそれだけでは説明しきれない真実が快感としてそこにあって、直はそれだけで確実に自分が高みに追いやられていることをひしひしと感じていた。
そしてそのことは秋山も同様で、ただ足を、それも足の指を嘗めているそれだけなのに、ひどく興奮している自分を思いきり感じていた。
もちろん言い訳するわけではないが、こんなところを嘗めたのは生まれて初めてだし、いわゆるM的資質はない。
だがそれでもこれほど感じるのは────嬉しく思ってしまうのは、多分嘗めているのが直の足だからだろう。
誰よりも愛しく思う女の足────しかも誰よりこんな自分のことを愛してくれている女の持つ、女に付属する足だからだ。その何よりの証拠がつま先を綺麗に彩っている淡いピンクのエナメルだ。
先日、直がキレイでしょう?と見せつけてきたその時は、手も足も両方ともかなり強い光沢を放つキツ目のピンク色をしていた。けれど今日の直の手と足は両方とも揃いの淡いピンク色に綺麗に塗り替えられていた。今、彼女が着ている重ねたキャミの外側のそれと同系色のその色に。
それすなわち怒っていてもなお会いたいと思ってくれていた、そして同時にそうして会う際には秋山の前では少しでも綺麗で可愛い自分で居たいと思ってわざわざオシャレをしてくれたという何よりの証拠だった。そのことを端的に、そして何より雄弁に教えてくれるその爪先を愛しく思わないでいられるハズがない。
だから秋山はこれまでしてきたどのキスよりも優しくそして情熱的に直の足の指にキスをする。時折甘噛みなんかもしてやるが、自分の歯が爪先にあたって自分への愛の証であるエナメルを損なわないように、充分配慮し計算してだ。
そしてそんな愛のこもったキスに耐えきれず弓なりに背中をしならせながら、直は軽い絶頂を迎える。
「…ああッ…!…」
たまらない、そしてとまらなかった。さざ波のような快楽が内側でそっとたゆろいつづけ、もどかしいほどに狂おしく、そして何より愛おしかった。
だから未だ焦点が定まり切らないままの瞳で自分をこんなふうにした男の方をそっと見やると、秋山は自分のだ液で塗れた口元を手の甲でグッと拭った。
そしてそんな自分の姿に直が見愡れてしまっているのに気付くと、いつもの少し意地悪な、だけど直を魅了してやまない秋山らしい皮肉な笑みで、直に向かってその場で1つ、1つの問いを投げかけた。
「────で、この後どうします?女王様」
「?」
一瞬何を言われたかわからず、瞳を小さくそこで揺らすと、秋山は笑った顔を今度は澄まし、明らかに作ったうやうやしさで、直に向かって問いかけた。
「ですから俺、今度はちゃんと女王様の言い付け通りに出来たんですけど、女王様はこの哀れな下僕にご褒美を与えてはくださらないんですか?」
その言葉に直は一瞬で絶句する。
「…なっ…!!…」
この場合、この流れでいう『ご褒美』とは自分自身に他ならない。それがしっかりわかるのにそのおねだりに頷くことなど恥ずかしすぎて直には出来ない。たとえそれを与えることを自分自身が望んでいても────もっと深くそして強く愛して欲しいと願っていてもだ。
だからそんないじわる言わずにいつものように強引に、けど同じくらいすっごく優しく自分のすべてを奪って欲しいと、そんな切なる願いを込めて潤んだ瞳で見上げると、そんな直の心情を絶対確実にわかっているのに、そうしてあげることはせず、ただ一言で促した。
「ねぇ、直?────俺の女王様」
その甘く掠れて響いたその声に直はどうしても抗えない。
だから彼の望む通りに────そして自分も望む通りに、彼にあげることにした。けど────。
「わかりました秋山さん、秋山さんのお望みどおり、秋山さんに『ご褒美』あげます。けど────」
「『けど』?」
言葉尻りに残されたその濁りをくり返しその意味を問いかけると、直は恥ずかしそうだけど、この世でただ1人秋山を跪かせることが出来る女王としての貫禄で、彼に対して絶対の条件を1つ、高らかに突き付けた。
「けど秋山さん、その代わりわたしのことすっごく気持ちよくさせてくれなかったらホントにキラいになりますからね。ホントにホント、ホントにホント、ホントにホントの本当ですから!!」
その言葉と勢いとそして真っ赤な直の姿に、思わず秋山はプッと噴き出す。
「クッ、わかった」
こうして端的に言い切ることで、何とか込み上げてくる笑いの衝動を押さえると、秋山は下僕どころか捕食者の瞳で直を見下ろしながら、絶対として1つの事実をここで誓った。
「お前が望む、望んだ分だけ最高に気持ち良くしてやるよ。多分その程度じゃ絶対済まない────確実済まなくなるだろうけど」
そうして今度は直だけではなく2人同時で高みにのぼるその為に心とそして身体を重ねた。
完全に1つに戻ることは出来ないけれど、だからこそ逆に2人でいられるその幸福をどの瞬間より味わいあえるそんな時間を過ごす為に────。
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