BLEACH 日番谷(→雛森)&雛森


傷つけて- kizutukete -





 


 おせっかいだと思いつつも、乱菊は直属の上官にもの申しておくことにした。
「本当にいいんですか、隊長?」
 これ以上の言葉は必要無い。身長も体重もその他もろもろ身体的特徴は自分の半分ほどしかない上司だが、天才の名を欲しいままにしている天才だ。機転も早けりゃ察しも早い。だから自分の言葉の意味を察するだろうとわかっていた。
 そしてそれは事実であり、だから彼はこう返答した。
「ああ、いいんだ。ってか、必要ねぇ。余計な気をまわさんでいい」
 そう言い切る言葉によどみも濁りもない。彼もまた彼女が知っているようにたったこれだけの言葉で彼女が察してみせることをよく知っていたからだ。
 だからこうやって返された返答に乱菊は深く息を吐いた。問いかけた段階からこの種の返答をされることも彼女には予測出来ていた。
 しかし言葉に感じた重みについ再び彼が望んではいないだろう言葉を言わずには居られなかった。
「けど隊長、今度の任務に赴いたらいつこっちに帰ってくるか全然決まってないんですよ?それなのに本当に雛森の顔、見に行っとかなくていいんですか?」
 来る破面との戦いに備え派遣される先見隊。彼は自分を含めたそのメンバーの統率者としてこれから現世へと赴くのだ。
 もちろん空間というよりむしろ次元的に現世と尸魂界はまったく違う世界だが、地獄蝶を使えばすぐにこちらの世界の方に戻ってくることは出来る。しかし彼の生真面目すぎる性格から考えればいったん向こうに赴いたならその任務が終了するかもしくは何らかの成果をあげるか、伝神交換機などでは伝えられない重要事態が発生し、かならず生身で尸魂界に戻らなければならないとでもならない限り、そうすることはないだろう。
 だからせめてと思うのだ。いくら実際『会う』と言っても、彼の幼馴染みであり、彼にとってはただ1人、失うどころか傷つけることさえ絶対に許されない存在である雛森は、いまだ先日の傷が深い眠りに落ちたままなのだから、会話を交すことは不可能だ。でもそれでも顔だけでも見てくればいいと、そう思ってしまうのだ。
 しかしそんな乱菊に対し彼は先程同様にごく簡潔に断言した。
「必要ねぇ。それに会わせる顔もねぇ」
 直接聞いたわけではないがこれで聞くのが2度目となる彼が口にした後半の言葉に、乱菊はまたまた深く息を吐く。
「隊長─────」
 これだから放っておけないのだ。
 今回のことは────雛森が一命を取り留めこそしたが、それでもいまだに意識が戻らないほどの重傷を負わされたことは、決して彼の所為ではないのだ。
 だっていったい誰に予想出来たというのだ?あの藍染が────誰からも慕われ、尊敬されていた藍染があのような大罪を犯すなど予測できたというのだ。瀞霊廷、護廷十三隊の人間誰1人、すべてが明らかになったその瞬間でさえ、それを疑わずに入られなかったほどだ。
 なのに、それなのに彼はあの日からずっと自らを責め続けている。罪を犯したのは藍染とその仲間であるギンと東仙だというのに、自らが犯したのよりより深くその罪で自らを責めている。
 その証拠が先ほどの言葉だ。雛森が重傷を負ってから今日でもうかれこれほぼ1月になる。その間に彼が雛森の様子を直接見にいったのはたった1回────すべての罪の所在が明らかになってからの1週間後にたった一回その寝顔を見に行っただけなのだ。
 それにはもちろんあの事件に関する事後処理や、突然3人も隊長格が抜けてしまったことで増えてしまった仕事の負担による忙しさも関係してはいるだろう。しかしそのたった一回に────しかもほんの数分彼女の寝顔を見守った時にも、それを見かけ声をかけた卯ノ花に『自分には会わせる顔がない』と────『掛ける言葉がないのだ』と、そう言っていたらしいのだ。
 それほどまでに彼は────日番谷は、自らを責め続けている、責め続け、そして悔い続けている。
 それを何とかしてあげたい────乱菊はそう思うのだ。
 いつものようにすべてを自分の所為と思うなど傲慢だ、驕りだと、そう言い切るのは簡単だ。けれどそれをわかっていてなお悔い続けている彼に一体どんな言葉を紡げばいいのか?いったいどんな言葉を紡ぎ出せば、彼の心に掛かる負担を取り除いてやることが出来るのか?────そんな難しい命題のその前に乱菊はまた立ち止まる。日番谷がそうしつづけてきたとおり、乱菊もまたこの一月の間、ずっとそればかりくり返し続けてきているのだ。
 だからそのこともちゃんとわかっているから、日番谷は彼女に向かってこう言い切る。
「だから気にすんじゃねえ、松本。これは俺の問題だ。十番隊の隊長としても、『日番谷冬獅郎』っていう普通のタダの男としても犯してしまった失態をどう取り戻していくかっていう、俺自身の問題だ」
「隊長、そんなっ!!」
 その言葉に思わず乱菊は反応する。
「一月たってもぐだぐだとヘタレつづけてるんですから1人の男としてっていうのはともかく、隊長としても失態犯してるだなんて、そんなこと絶対ありませんよ!」
「そうか?」
「そうですよ!!」
 断言する。
「あの時、他の隊長たちも含めてまっ先に一番真相に近付いてたのは間違いなく隊長じゃありませんか?!確かに藍染を討てなかったのはあれですけど、それを失態とは違うでしょう?!」
「確かにな」
 その乱菊の必死の説得に日番谷はあっさりと肯定する。
 がしかしこうも続けて断言する。
「でも雛森に宛てた藍染からの手紙の中身を確認しなかったのは、まぎれもなく俺の失態だ。護廷十三隊の十番隊を預かる隊長として絶対やっちゃならなかった、最低最悪の失態だ」
「隊長────」
 その言葉────そして言葉に力みはなかったが、それでも心の内のその重みを隠し切れず、白くなるほどにぎゅっと握りしめられているその手に、乱菊は言葉を失う。
 確かに事実そうなのだ。自分もあのときは日番谷のそのまま雛森に渡してやれという言葉に同意し、彼女に渡してしまったが、あの時自分達は渡すにしてもその前に中身を確認しておかねばならなかったのだ。
 というのは、実際はどうだったかはともかくとして、あの時、手紙の置かれていた場所や状況から考えて、あの手紙の中には藍染が誰に会いにいくだとか、何を話すつもりだとかいう言葉が記されていると判断するのが当たり前だ。となれば一刻も早く開封し、真実に近付くための欠片をそこから拾い集めることが、責任ある護廷十三隊の隊長、そして副隊長として必要なことだったのだ。
 なのにそんなこと欠片も考えず、いくら混乱していたとはいえ簡単に情に流されてそんな当たり前の判断を自分達は忘れてしまっていたのだ。
 だからそのことでは日番谷1人は責められない。自分にだって十分に、十二分にその責任はあるハズだ。
「それにだ」
 だが乱菊がその思いを紡ごうとするその前に、日番谷が先に口を開いた。
「仮にそんな失態したにしても、それでもアイツを守るのが────雛森に怪我1つ、血ィ1滴流されないようにするっていうのが、俺のしなくちゃならなかった、他に譲れねぇ絶対だ。それなのにそれすら出来なかった俺がおめおめこんなシケた顔をアイツの前にさらさせるか」
「隊長────」
 その、言葉尻を奪うことで乱菊が感じた責任を自分のものにしようとし、そしてさらにあえていつもの乱菊ならツッコんでくるだろう言葉まで紡ぎだしてきたそのことに、乱菊は日番谷の意図とその男気に黙って言葉をのみ込むことにし、あえてその意図にのることにした。
「ふ〜ん、さすがに隊長でも、自分の顔がシケてることは承知出来てたんですね〜。あたし、てっきり背が低すぎて見れる鏡がないのかとそんな風に思ってましたよ」
 そしてそんなあえて怒らせるためのそのセリフに、日番谷もあえて怒ってみせた。
「何だと?!松本、テメェ、それが仮にも上司に向かって吐くセリフかっ!」
「はいはい」
 だから乱菊はいつものようにそう流し、そんないつもの乱菊の姿にいつもの様に舌打ちをして、日番谷は一言こう命じた。
「行くぞ。『会わせる顔』を取り戻すんだ」
「はい」
 その言葉に大きく頷き、背丈は確かに小さいけれど、だけど誰より大きな漢(オトコ)の背中に三歩遅れて付いていく。
 確かに彼は後悔してるし悔い続け、苦しみ続けている。しかしそれでも前に歩むことはやめていないのだ。だったらそれを見守ることが彼の副隊長である自分に出来るたった唯一のことのハズだ。
 そしてそれはまた同時に自分にとってのものでもある。自分も前に進まなきゃ────強くならなければいけないのだ。
 もっと捕まっていたかったなどぬかしながら、それでもするりと腕をすりぬけ、いつものように自分を置いていってしまったあの男をもう一度この手で捕まえて、その真意を彼から聞き出し、なじってそして怒鳴り飛ばして、それからぎゅっと抱きついて抱きしめてもらうその為に。
 だから乱菊はその為の一歩を改めてここで踏み出した。小さいけれど大きな背中を持つ、ある意味似たもの同士なのかもしれない、不器用な上官の後を追って────。



 



                                 THE END.





 夏休み企画の再録です。乱菊さんとひっつーしか登場してませんが、日雛でちょっぴりギン乱なSSです。
 作中で書いた手紙の確認うんぬんは原作を初めて読んだ時に思ってしまったことです。それさえしとけば雛森さん暴走したりなんかしなかったはずだし、事件はもっと早くに解決していたんじゃないかと思っていたので、きっとこのことをこの2人も反省してくれてると信じ文章に直してみました。。
 それにしてもこのコンビ、とてもしゃべらせやすくて大助かり。理想の上司と部下の関係だな〜といつも思わせられています。それが少しでも出てたらよいのですが。。


 
 

 
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