BLEACH 一護×織姫


Magic to make lovers





 その時、ちょっと普通じゃない女子高生井上織姫は、背後をとられてもまったく気がつけないほど、思いっきり悩んでいた。
 だから彼女にしてみたらまさに降って湧いてきたその呼び掛けに、正真正銘飛び上がってしまった。
「よっ、何やってんだ、井上」
「くっ、黒崎くんっ!!」
 途端、ある意味器用な織姫は、どうやったのかその場で足をもつれさせ、そのまま前のめりに突っ込んだ。
「キャッ!!」
 悲鳴をあげるが、時すでに遅し。
「井上っ!」
 と、その光景をまさしく目撃することになった一護が慌てて手を伸ばすが、長い髪の先っぽが彼の指をかすめはしたが、助けることは出来なくて、そのまま地面とゴッツンコした。
「わぷっ」
「だ、大丈夫か?!井上」
 そのあまりに見事なコケっぷりに、一護がすかさず問いかける。
 すると織姫は自爆してしまった恥ずかしさから微かに頬を紅潮させつつ、慌ててすかさず否定した。
「だっ、大丈夫、黒崎くん! 」
 だがそれは強がりでしかなかったようで、そのまま言葉も表情も変化していき、最後には素直な感覚を述べた。
「平気へいきッ…・・・・・・って、イタァッ!」
 そりゃそうだろう。受け身もとらずに頭というか額からつっこんだのだ。まだ打った直後だと言うのにすでに赤く腫れており、そこに巨大なたんこぶができてしまっているようだった。さらにその上こちらの方は微かにだが鼻のてっぺんも少し擦り剥け、微かに赤くなっている。
 そんな織姫の姿と様子に、一護は申し訳ない気持ちになる。
 驚かせるつもりはまったくなかったのだが、自分が声を掛けた所為で織姫は驚き怪我を、それも女の子なのに顔を怪我してしまったのだ。
 彼女が思考や思索にふけることがしょっちゅうなこと、そしてその時の集中力は並み大抵のものでないことを自分は知っていたというのに、そのことに対する配慮をわすれたことの結果が、この事態を引き起こしたのだ。
 だから一護はその感情で、織姫に向かって謝罪した。
「ゴメン、井上、俺の所為で…」
「なっ、何で?!黒崎くん」
 織姫にしてみれば自分が勝手に焦りまくってこけてしまっただけなので、あやまられたそのことに驚きまくって否定する。
「別に黒崎くんの所為じゃなくて、あたしが勝手にこけただけなのにあやまられても困っちゃうよ」
「けど…」
「大丈夫 !」
 それですまされないほどの怪我だと思うから、一護が言葉を続けようとすると、それを遮るように織姫は言い切り、それからこんな言葉を続けた。
「だってあたしは元保健委員ですぞ?!こんなこともあろうかと、いろいろ常備しているのです!」
 そう言ってジャジャンと胸を張り、取り出したのはいわゆる『ひえピタ』。どうしてそんなモノを持ち歩いているのか激しくナゾなのだが、とにかくそれを取り出すと織姫はすかさずおでこにはり、ニッコリ一護に笑って見せた。
「ねっ?」
 その実に織姫らしい姿に、一護は微かに目を細める。
「井上────」
 いつだって彼女はそうやって、すべてを受け入れ許してしまう。許してそして癒してしまう。
 そのことを一護はいつだって第3者的立場で見る時、すごいと思っていた。どれだけ深く優しい心を持っているのだろうといつだって思っていた。
 そして同時にほんの少しだけ痛ましいとも思っていた。だってそれじゃあ織姫が痛いだけだ。織姫だけが痛いだけだ。
 だからそんな彼女を見る時にはいつも側にいたいと思っていた。何をしてやれるかわからないけれど───いやきっと何も出来ないけれど、それでも側にいさせてほしいとずっとずっと思っていた。
 けれど客観的でなく、彼女に癒される者として彼女の前に存在する時、そんな感情が吹き飛んでしまうことを一護はたった今自覚してしまった。
 あまりに限り無くそしてその深い慈愛にいつまでだって触れていたい───触れてそしてその中で溺れて、全部独り占めしてしまいたい。
 もちろんそんなこと許されないことだとわかっている。そして端的に言ってここまで思ってしまうのはきっと自分だから───他ではなく『自分だから』に違いないことも、一護にはすでに自覚があった。
 だから胸の奥が温かくなり、微かに揺れるのを自覚しつつ、けれどそれを気取られないように懸命にカオをつくりながら、織姫のその厚意を受け入れて、話題を元のそれに戻した。
「で、何考えてたんだ?」
「ふぇ?」
 あまりに唐突に突き出された言葉だから思考が付いていかなかったらしい。
 だから目を丸くして見上げてくる織姫に向かい、一護は言葉を補足した。
「だから何考えてたんだ?井上。俺が声かける前、すっげぇ考えてただろう?」
 その言葉で合点がいったようで、織姫はぽんと手をたたく。
「あっ!」
 その織姫からの反応を受け、一護は続けて織姫に言う。
「悩んでるっていうんなら何だって言えよ?井上にはいつも世話になってるし、俺に出来ることなら何だってやるし、何だって手伝うから」
「黒崎くん───」
 その言葉に今度は逆に織姫が少し目を細め、それからそのカオを思いっきり輝かせた。
「ありがとう!黒崎くん」
 そうして文字どおりの満面の笑みで一護に礼を述べた後、すぐさまこう言葉を続けた。
「けど別にあたし、大したこと考えてたわけじゃないから」
「ホントにか?」
 しかしあの集中しっぷりから考えてとてもそうとは思えなかった一護が問いを重ねると、織姫はかなり焦った様子で目まぐるしく表情を変化させた。
「えっ、あっ、あっ、うんっ!!」
 だが当然身ぶりに手ぶりに足ふりまで付いてのその全否定は逆にどう考えてもおかしい。
「??」
 だから一護はそうでなくても悪い目つきを細め、そのことで疑問の感情を織姫に向かって突き付けると、その表情に織姫はすぐさますかさず白旗をあげた。
「いや、あの、ゴメンなさい」
「いや、別にあやまらなくていいから」
 あまりにしゅんとした表情であやまられたものだから、とりあえずそのことをまず否定し、それから一護は言葉を続けて改めて織姫に問いかけた。
「で、いったい何を考えてたんだ?」
「あっ、あっ、あのねっ」
 その問いかけで織姫は再び焦りだし、そしてしばらく視線やなにやらを彷徨わせた後、実に思いきった様子でガバリと大きく顔をあげ、その勢いのまま言い切った。
「今度ウチが学校が分裂して空座第一分の1高校と空座第1分の2高校になるって知ってる?!しかもその学校の分け方っていうか、生徒の分裂のさせ方が名前順でも成績順でもなくて、野球拳で決めるんだって!」
 いきなり出てきたその言葉に一護は思わずぽかんとする。
「・・・・・あ?」
 驚いたというか何というか、その───あまりにそう言い切った織姫の言葉がいつもの3倍はあろうかという早さで発せられていた為、内容その他うんぬんより、そんな織姫に驚いてしまっていた。
 だがそれを自分が発した言葉の内容が一護をそうさせたのだと思った織姫は、すかさず一護に問いかけた。
「ねっ、ビックリでしょ?信じてくれた?!」
「えっ?!?」
 ワケがわからない。
 言葉の前半の意味はわかる。けれど後半の確認の仕方はどう考えてもかなりおかしい。
 だから思わず目を白黒させてしまった一護に織姫は追い縋る。
「信じてくれてない?!」
「てか───」
 それは一体どういう意味だと、問いかけようとするその前に、織姫は天を仰いでいた。
「あーっ、やっぱりダメっ?!」
「んん??」
 そのことに驚いて一護はワケを探ろうと一護は織姫の様子を見やる。
 だがその無言の問いかけを無視するというか、まったく意識的視界におさめず、織姫は勝手に言葉を続けてしまった。
「じゃっ、じゃあね、今度乱菊さんと冬獅郎くんが結婚するんだって知ってる?しかも冬獅郎くんの方がおムコ入りして『松本冬獅郎』になるんだって!!」
「はぁ?」
 またまた唐突で、取り留めのない織姫の言葉に、一護が軽い疑問符付きの言葉をその場に浮かべると、やはりさきほど同様に織姫はその反応に飛びつき、一護に向かって確認した。
「ねえ、黒崎くん信じてくれた?今度こそ、今度は信じてくれた?!」
「いや」
 何だかそこまで期待されると信じてやりたい気持ちにもなったが、一護は正直に否定した。
「それ絶対ありえねぇだろ」
 なにしろ乱菊の方はよくわからないが、日番谷の方はただ一途に5番隊の副長の女を思っている。他の男を想い、その結果殺されかけすらしたらしいというのにそれでもその女だけを想い、報われるとか報われないとかそんなこと関係無しに、ただその女を護る為だけに己を律しつつ生きている。
 自分が知っている日番谷冬獅郎は、ガタイこそ小さいが本物の漢(おとこ)の魂を持った男だ。それなのに、いくら乱菊ほどのナイスバディでせまられたとしてもおちたり血迷ったりするとは思えない。
 だからこそ確信というレベルでなく絶対というレベルで一護は織姫が述べた内容について自信をもって否定した。
 だがそのことで織姫はますます困ってしまった『らしい』。
 というのは言葉こそ先ほどとよく似ているが、さらなるオーバーリアクションでのたうちまわりはじめてしまったからだ。
「あ〜っ、やっぱりダメッ?!これもダメ?!」
 そのことに一護の方も慌てる。
「いっ、井上?!?」
 いったいまったく本当に織姫は何を言いたい、っていうか、何がしたいのかわからないのだ。
 どうしてこんなわかりやすい、有り得なさ過ぎるウソをつくのか、その理由を探ろうと先程までより更に真剣に彼女の中にある答えを探して彼女を見やり始めた時、織姫は半分泣きながら叫んだ。
「やっぱりあたしにはウソをつく才能ないんだー!!黒崎くんアタマいいから、騙すなんて出来ないよぉ」
「・・・・え?」
 いきなりそこで出てきた自分の名前とそれと繋がる内容に、一護は目をしばたかせる。
「い、井上さん?!?」
 さん付けで呼ぶことで、一護はその激しすぎる疑問を何とか織姫に向かって伝える。
 するとその呼び声を受け、織姫は勢い余って180度逆に向いていた身体を戻し、一護に対して真正面に向き直った。
「あ、あのね、黒崎くん」
 どうやら観念したらしい織姫が、そう呼び掛けてから続けた内容はこうだった。
 今日の夜中、0時を越した頃直ぐに千鶴からメールが来たのだそうだ。その内容は『早く窓を見て外を見た方がいいよ。東の空で姫の大好きなウルトラマンとアンパンマンが手を取り合ってコサックダンスを踊ってる!!』というもので、それを見た織姫はもちろんすぐに言われたというか書かれていた通りに窓を全開にして外を見た。
 しかし当然そんなこと事実であるわけがない。だから織姫はすぐさまメールで千鶴に問いかけたのだ。ウルトラマンもアンパンマンもどっちも2人とも居ないよ、と。
 するとそれに対して返されてきた内容は、さっき送ったメールはウソ、今日は4月1日のエイプリルフールだから織姫を騙そうと思って、というものだった。
 だが普通なら怒ってもいいようなその内容に、織姫は喜んだ。
 だってそのメールにはこうも書いてあったのだ。エイプリルフールにウソを付き合うと、もっと仲良くなることが出来る───もっと打ち解けられるのだと。
 だから───。
「だからあたし、黒崎くんともっと仲良くなりたいってそう思って、どんなウソつこうかって悩んでたの」
「井上───」
 その衝撃とまでは言わないが、衝撃に近い内容の告白に、一護はたまらない気持ちになった。
 だって織姫の言葉は罪というか、騙そうとしたことについての告白だが、同時に好意を告白する言葉でもあったから───声を掛けられるまで気配を読むことが出来ず、転んで額をうち、鼻のアタマを擦りむいてしまうほど自分との関係をよくする為に一生懸命悩んでくれたという、それほどの好意の告白でもあったからだ。
 だから恥ずかしそうに肩をすぼめ、しゅんとしてしまっている織姫に向かい、一護はこう言葉を紡いだ。
「バカだなぁ、井上。別に無理してウソなんて付く必要ねぇだろ?!」
「けどっ」
「だってだ、井上」
 反論しようとした言葉を遮り、一護は言う。
「そんなことしあわなくったってもっと別の方法で仲良くなることは出来るだろ?」
「例えば?!」
「『例えば』、そうだな───」
 自分の言葉に食い付いてきた織姫をチラリと微かに頬を赤く染めながら見下ろし、一護は改めてこう言った。
「例えばこれから俺が言うことを井上が全部聞いてくれて、その答えに井上が『うん』とか『はい』とか言って頷いてくれたりしたら、だな」
「うん!あっ、『はい』も!」
「って、井上、俺、まだ何も言ってねえぞ?」
 その勢いのよさとまったく構わぬ即答に一護は小さく苦笑する。
 だがそれでこそ井上だとも同時に思ったから一護は改めて織姫に向かい、織姫に向かって言葉を紡ぐ。
「じゃあ言うぞ、井上。『俺、前からお前のことが好きだったんだ。だからどうか付き合って欲しい』」
「─────────ふぇ?」
 織姫からしてみたら意外すぎるその言葉に、織姫はぽかりと口を開けたまま、その場で思いっきり固まってしまう。
 そんな彼女を見下ろしつつ、一護はとうとうしてしまった告白に思いっきり恥ずかしい思いを感じながらも、もう一度同じ言葉を紡ぎ、織姫からの返事を促した。
「だから、俺は前からお前のことが好きだったんだ。だから井上が俺のこと嫌いじゃないって言うんなら、どうか俺と付き合って欲しい」
 そのことでやっと今の状況が現実で真実だとわかった織姫は、潤んだ瞳で一護を見つめた。
「黒崎くん───」
 そんな織姫に一護は簡潔に問いかける。
「ダメか?」
「ううんっ!!!」
 すかさずすぐに即答が返る。
「ダメじゃないよ!!けど───」
「『けど』、何?」
 織姫が濁した言葉のワケを一護がそう問いかけると、織姫はまだ夢か現実かわかっていないような表情で、そのままの口調でこう言った。
「それ黒崎くん、エイプリルフールだから言ってくれたってことじゃないよね?」
「バカヤロウ」
 その言葉に思わず一護は織姫の額を人さし指を親指で弾かせてペシリと叩き、そのままその手を織姫の背中の方へとぎゅっとまわした。
「こんなウソつけるほど、俺はまだ人間出来ちゃいねぇよ」
 その言葉と何より抱き締められたそのことで伝わる真実に、織姫はそっと目を閉じた。
「黒崎くん───」
 嬉しくて愛しくて手を伸ばす。
 彼がしてくれているように彼を想うその気持ちが上手く伝わってくれないかなと、そんな想いと祈りを込めて自分のすべてを全部差し出す。
「大好きだよ、黒崎くん」
 それはずっと言いたくて、伝えたかった心からの言葉。
 だからその心のままに、全部を込めてそう言うと、それを受け止めた一護は笑って、それから同じ気持ちでこう言った。
「俺もだ、井上。俺も井上のことが大好きだ」


 

 そうして交した初めての口付け。
 初めてのキスはちょっぴり織姫の流したうれし涙でしょっぱかったりしたけれど、甘くてそしてほどよくせつない、最高に素敵なものになったのでした。

   THE END.   






 『27巻で織姫表紙2回目記念、しかもルキアより先に!!!』ということでバカネタイチオリを書きました。だってこれって久保先生が織姫こそがヒロインだって認めた証じゃありませんか!もう嬉しくて嬉しくて。。。。(※ルキアはいい意味でヒロインではなく、ヒーローの1人だと私は思ってますので)
 黒崎くん別人と化してますが、いろいろあった後ならこれくらい甘くなってくれるんじゃないかな〜と信じて。

 でも書いてる私が一番疑問。『いったい2人はどこにいるの??』
 だって4/1は春休みじゃありませんか!!誰か私に教えてください(笑)


 
 

 
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