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「♪短冊付けましょ笹の葉に〜 願いを書きましょ筆ペンで〜 世界征服誓ったら〜 てっぺんに飾って出来上がり〜」
何処からか、ではなく、ハッキリ庭から聞こえてくるその奇妙な歌声に、その家の住人の1人である一護は苦笑した。
何しろ歌詞だけ追うと若干ヤバいところはあるが、本日7月7日に歌っていてもまったくおかしくないものなのだが、歌っているそのリズムはひな祭りの際のアレなのだ。しかも他にも同じ様に見事すぎる替え歌がすでに数曲聞こえてきていた。
楽しそうなのはいいことだし邪魔をするつもりはないが、その熱唱を披露しているすぐ人物のその近くには楽しいことや面白いことが大好きな一護の妹遊子とそして夏梨がいる。そして夕方からの診療に向け診察室の片づけやら掃除をしている父の耳にもそれらの歌は届いていることだろう。だとすればこの嬉しげで楽しげな歌は来年から黒崎家の定番だ。それを思うとクールぶるのが大好きな一護としては頭を抱えたくなるところ。
だがそうなる先がわかっていてそれを止めないのは、聞こえてくる声が余りに楽しそうで嬉しそうだからだ。
だから中止ではなく中断を求め、一護はにぎやかな庭先に向かい声を掛けた。
「おい井上、それに遊子夏梨。茶にしねぇか?麦茶入れて羊羹だしたから」
その呼び掛けにすぐさま3人のかしまし娘達の元気のいい返事がそれぞれに返る。
「は〜い!」
「わかった」
「やった、やった!!」
そうしてその声すら追い抜くようにパタパタと戻ってくる3人の姿に一護は再び苦笑する。小学生2人と女子高生1人の組み合わせのはずなのに、どうみてもコドモ3人にしか一瞬見えなかったからだ。
だからいつもの調子で戻ってきた妹達らに声を掛ける。
「茶飲む前に手ェ洗えよ。服も汚れてるなら着替えて来い」
「「はぁい」」
その呼び掛けに一護の幼い妹達は唱和し、パタパタと廊下を掛けていく。それを見て再び苦笑する一護の姿に、1人取り残された3人目は笑った。
「フフッ、黒崎くん、すっごくイイお兄ちゃんだねぇ」
「井上」
家族は───特にその中でも自分より幼い妹達は、大切にし守るべき者だという信念が一護の中には確固としてあるが、それでもこんな風に知られ、それを指摘されるのは恥ずかしい。
だからその恥ずかしさをごまかす為にも、一護は織姫に小さく詫びた。
「ゴメンな、井上。アイツらひさしぶりの来客だからって騒いじまって、アイツらの相手すんの大変だろ?」
「ううん、そんなことないよ、黒崎くん」
その言葉を織姫は笑顔と即答で否定し、続けてニコリと言い切った。
「あたしも同じくらい騒いでるもん。むしろ妹ちゃんたちの方が、あたしの相手してくれるのに疲れてるんじゃないかなぁ」
「ハッハッ」
そう言って小首を傾げてみせる織姫の姿に一護は笑うしかない。
一護が知る級友井上織姫は確かにもともとハイテンション気味な女の子だが、今日の彼女は特に振り切れている。確かにそんな彼女と付き合うには相当な体力を必要とすると想像するのは容易だった。
だがそう思ってもそれを口にするのはさすがにはばかられるので、とりあえず無難そうな話題として、一護は話をこう振った。
「だけど本当に井上、井上は『七夕』が好きなんだな。やっぱり名前が『織姫』だから昔から好きなのか?」
───と、言ったのは、織姫が今日黒崎家へやって来た理由が、一護が啓吾や水色たちに今日はこれから妹達に七夕の飾り付けを手伝わされる予定で、でも病院の患者さんが書いた分と家族の書いた分の短冊を飾るだけっていうのもなんだから、手伝いがてら遊びに来ないかと誘っていたところ、そばに居たたつきが『なら織姫を参加させてやってよ。織姫そういうの好きだから』と言い出し、そして事実たつきからその話を聞かされた織姫が『お邪魔じゃなかったらぜひにっ!!』と懇願してきて今の状態にあるという経緯があるからだ。
だから一護としてはかなり無難な、当たり障りのない話題を選んだつもりだったのに、織姫にとってはそうではなかったらしく、一瞬目をしばたかせると、首を横に振りこう言った。
「ううん、そんなことないよ、黒崎くん。確かに今は好きだし、もっとずっと子供の頃は七夕大好きだったけど、実は最近まで七夕って全然好きじゃなかったんだ」
「えっ?そうなのか?」
「うん」
微かに驚いた一護の言葉を肯定し、織姫は続ける。
「だって黒崎くんも言ったけど、七夕って言えばやっぱりあたしの名前と同じ『織姫』と『彦星』ってイメージじゃないですか。けど、小学校上がってからすぐの頃かな?本当の織姫と彦星のお話知っちゃってから、好きじゃなくなってたのです」
「『本当の織姫と彦星の話』?」
「うん」
ひっかかった言葉をくり返した一護の言葉に織姫は先程同様、大きく頷いて肯定し、それから今度は逆に問いかけた。
「黒崎くんは知ってる?織姫と彦星の話?」
「ああ、まぁな」
上目遣いにそう聞かれ、頷き、そして補足する。
「一応っていうか、あらまし程度だけど」
「じゃあそれを言ってみてくださいな」
「えっ?!」
いきなりのその言葉に一護が小さく目を見開くと、織姫はどう見ても作った神妙なカオで、一護に対してくり返した。
「だから、黒崎くんの知ってるその織姫と彦星のお話、それを言ってみてくださいな」
「ええっ??」
「だから、ねっ?、ねっ!」
「あっ、ああ…」
くり返しそうせかされ、一護は仕方ないというよりその勢いに押され、妹達に語るように自分の知っている七夕の話をし始めた。
「確か、織姫は機織りで、彦星は本当は『牽牛』とかいう牛追いだったんだよな。で、愛しあって結ばれて結婚したのはいいけれど、結婚した途端、それまで働き者だったのに全然働かなくなっちまって、それを織姫のお父さんの天の神様である天帝が怒って2人を無理矢理別れさせ、2人の間に大きな川を作っちまったんだよな。深くて長くて、とてもじゃないけど泳いだり歩いたりでは渡れないバカでっかい川。だから互いに会えなくなって、織姫も彦星もすっごい落ち込みまくってたら、それを哀れに思ったカササギが仲間全員で橋になってくれるようになって、おかげで年に1回だけだけど、七夕の日以外真面目に働くことが条件で、橋のまん中で会えるようになった、ってのじゃなかったか。ちなみのその話のオチが、2人を別れさせるために天帝が作ったのが天の川っていう」
そうしてそう、何とか要約して語り終えた途端、一護に向かい織姫は鮮やかに笑いつつ、否定した。
「ブッブゥー!!!」
「えっ??、井上??」
やけに思いっきり否定され、一護が驚いて目を見開くと、そう反応を返した理由をまず織姫は簡潔に提示した。
「残念でした、黒崎くん。それ不正解!それ間違ってるの」
「えっ??」
誰でも知ってるはずで、自分も絶対そうだと思っていたことを間違っているとそう言われ、その驚きに目を見開くと、織姫は小さく笑い、その理由を説明しだした。
「あのね、黒崎くん。黒崎くんの話、ほとんど合ってるの。けどカササギが橋になってくれるようになっておかげで会えるようになった下りがあるでしょ?あそこ、本当は2人は橋のまん中で会ってるんじゃなくて、織姫が橋を渡って牽牛に会いに行ってるの。織姫だけが橋を渡って、牽牛が待っている、っていうか、住んでいるところまで」
「えっ?!そうなのか?」
「はい、そうなのです」
以外に知られていない、というか、間違って知られてしまっているその真実についてそう語り、だから、と続けて織姫は言う。
「だからねあたし、それ知ってショックだったんだ。だって黒崎くんも言ったけど、2人の間に出来ちゃった橋ってすっごく愛しあってる2人が会うの諦めるしかなくなっちゃうくらい長くて深い川なんでしょ?なのに彦星はそんな幅の広い川に掛かってる橋を奥さん1人に渡らせる───何も彦星の方が渡るべきとまでは言わないけど、それでもまん中までも行かないなんて、それってひどいなって思ってたんだ。仕事サボりまくるくらい愛しあってたはずなのに、それなのに彦星はどうしてって───」
「井上───」
「だからね、黒崎くん」
語るにつれ、少しずつ表情を暗くしていった織姫を気遣うように一護が声を掛けると、織姫はそんな自分の感情を振り切るように強く切って、それから結論をこう続けた。
「だからあたし、織姫と彦星の話はあんまり好きじゃなかったんだ。織姫があんまり可哀相で───織姫だけが相手のことをすっごく好きで、本当は彦星はあんまり織姫が好きじゃないのかも、って思ってたから、あんまり好きじゃなかったんだけど、最近は少しあたしもオトナになってきたおかげでしょうか、織姫の気持ちがわかるっていうか、だんだん織姫がうらやましいっていうか、憧れるようになってきたんだ」
「えっ?どうしてだ??」
ウソでなく、織姫が本当に心からそう思っているとわかるから、一護にはその気持ちがわからない。
言葉でそうハッキリと言ってきたワケではないが、織姫が内心彦星に対し最低の男だと思っているのに違いない通り、一護も仮にも仕事を放り出すくらい惚れてそして惚れてくれた女にそんなひどい仕打ちをする彦星という男を最低だとそう思った。だから伝説の織姫が可哀相だという織姫の心情はとてもよく理解出来た。
けどそれなのにどうしてそんな哀れな女をうらやましいと思ったり、憧れたりなんかするのか。その感情はまったく理解出来ない。
だからその答えを求め、織姫に問い掛けると、織姫はこう返答した。
「だってちょっと考えればそんなひどいことされてるってすぐに気づけるはずなのに、それなのにそんなことにも気がつけないくらい織姫は彦星のことが好き───彦星のことが好きで好きでたまらないってことでしょう?それってすごいことじゃない?」
「───まあ、だな」
「でしょう?!」
確かにそうだとは思ったが、それでも結果1年に1度しか会えなくなってしまってるのだから、簡単には肯定できないと思ったからとりあえず濁した解答を織姫は肯定として勝手に受け取り、それゆえ自らを力付けて一護に向かって言い放つ。
「だからあたしは織姫がうらやましいのです。だって『出会いは星の数』って言うじゃないですか?それなのに織姫はその星の数の中からそこまで好きになれる人に出会えた───そしてその好きっていう気持ちを伝説になるまで貫いてる、それがすっごくうらやましくて、あたしにとっては憧れなのであります」
「井上───」
その言葉───そして何よりその言葉と共に浮かべられた笑顔に一護は目を見張る。
彼女が見た目の何倍も芯が強い女の子であることを一護はちゃんと知っていた。何しろ何度もその心の強さに勇気づけられ、励まされてきたのだ。こんなこと言うときっと彼女は『そんなことないよ!!』と何処かに激しく頭をぶつけかねない勢いで否定しまくってくるであろうが、織姫が居てくれたからこそ、今の自分があるのだとそんな風にも思っている。
だから知っていたはずなのにますますより鮮やかに───匂いたつように強く可憐にそこに立ち、微笑むその姿に一護はそれ以上の言葉が出ない。
だが自分のその魂からの美しさが一護の言葉を奪ったのだと気がつけない織姫は、一護がつくり出した空白に少し不安げに問いかけた。
「───やっぱりおかしいかな?」
織姫にしても自分の考えがかなり極端、一般的には敬遠されて否定される類いの自覚はあったのだろう。だから心配げに瞳を覗き込んでくるその姿に、一護は小さく首を横に振り笑った。
「いや、そんなことないさ、井上。けど少し心配にはなったけどな」
「『心配』??」
「ああ」
どうしてその言葉が出て来たのかわからない単語をくりかした織姫に頷き、一護は言う。
「だって井上は、たとえ本気で惚れた男が出来たって空の上の織姫みたいに仕事とかガッコウさぼるとは思わないからその点は心配しねぇけど、他んトコで絶対無理とか無茶とかするだろ?ヒトには散々心配かけるなとか頼れとかいうクセに、自分は何でも1人でやろうとしてさ」
「えっ、そんなことないよぉ〜」
「いや、そんなことある」
否定しようとした織姫の言葉をバッサリ否定し、否定した上で肯定する。
「井上はいつも結構そんなだ」
「黒崎くん───」
そう言われ、今後は逆に言葉を失ってしまった織姫に一護は言う。
「だからな、井上。いくら自分が『織姫』だからって───『織姫』に憧れてるからって、あんまり何でも無茶するなよ。あんまり『織姫』が頑張ったら『彦星』の───俺の立場がないからさ」
「・・・・・・・・・え?」
一瞬何を言われたのかわからず、大きく目を見開いた織姫に向かい、一護はごまかすように笑って言う。
「さあ、もう手、洗って来いよ、井上。せっかく入れてやった冷えた麦茶や水羊羹がぬるくなるぞ」
「えっ、ああ、うん、わかった。手、洗ってくるね」
納得はいききってはいないようだが、それでも織姫は食べ物につられたのか素直にごまかされ、一護が示した方向に向かい、くるりと方向をかえて歩き出した。その背中に内心ほっとし、一護はそっと息を吐き出す。
だっていくら織姫の美しさや気高さにおされたとはいえ、こんな流されたとしか思えない状況での言葉を人生初の告白にするなど己のプライドが許さなかった。
本当に───心から大切な人だから、もっとちゃんとした自分の言葉で、自分の想いを告げたかった。大切なんだ、大好きなんだ、と目一杯───。
だからその為にと心の中に強く刻む。
「本物の『彦星』みたいなマネは絶対しねぇようにしなきゃな。惚れた女だけに頑張らせるような、そんな無様で最低なマネ───」
途端、庭に飾った笹の葉が大きくゆれたから、そのことに一護は小さく苦笑した。まるでそんなこと当たり前だと告げられたとしか思えない、錯覚だけど錯覚じゃない、きっと絶対な錯覚に───。
THE END.
なにげイチオリ系としか言えない話っす。出だしの替え歌を思い付いたから出来ただけの話かも知れません。。
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