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「シロちゃんっ!!」
本来静かなはずの瀞霊廷の一角でそんな呼び声が大音量で、余すことなく響き渡った。
それはドタバタという足音とバタンという勢いよく扉が開かれる音に続いての第一声だったのだが、それだけでも充分奇怪なのにそれから更に数秒の後、さらに勢いと音量を増した明るい悲鳴が響き渡る。
「キャアッ!!」
その絶叫の声の持ち主は五番隊副隊長雛森桃である。幼さすら残る容姿でありながらその実力はその任を預かる者として不足なく、特に鬼道をあやつる能力は護廷十三隊の中でも屈指である。
しかし元来の性格が元でちょっぴりドジっこ、いささか抜けているところがあり、彼女の所属している五番隊では時折彼女のあげる困惑の悲鳴がそこ他かしこで響いている。なのでその声が響き渡っているのが五番隊隊舎でなら不思議はない。
だが今日というかたった今、彼女の悲鳴が響き渡ったのは十番隊隊舎───彼女が本来の居場所でなければ持ち場でもない場所の、しかも隊長室で、である。
当然そうなれば奇異の視線が彼女およびその空間に注がれ、満たされても当たりなハズなのだが、そういった視線はまったくない。何故なら十番隊の面々も五番隊の面々同様彼女のあげる絶叫にならされつつあったからだ。何しろ彼女はここ十番隊の隊長日番谷冬獅郎の彼女で、その関係もあって五番隊でするのの次にこの十番隊で騒ぎを起こしているからだ。
そんなわけでだんだん彼女の巻き起こす騒動に慣れさせられてきている十番隊の中でも当然一番慣れっコな男、先程最愛の彼女から『シロちゃん』と呼ばれてしまった日番谷は、驚くそぶりさえまったく見せず、ただ淡々と自分の恋人に相対した。
「いったい何の騒ぎだ?雛森。いつもっちゃあいつもだが何でお前は叫んでる?」
だがそんな当然の問いかけにも答えず、雛森はただ一点を見つめつつその場にヘナヘナとへたり込み、そのままガクリとその場に伏せた。
「ああっ、遅かった…一生懸命走って来たのにぃ…」
「雛森?!」
さすがのその様子に日番谷も眉をひそめる。
彼女がにぎやかなのはいつものこと、おっちょこちょいなのも、何ごとも大袈裟にしてしまうのもいつものことだ。だがそれを差し引いたとしても、何だか少し様子がおかしい。今にも気を失ってしまいそうなほど動転しているのがよく見える。
なのでとりあえずゆったりに見せ掛けた神速で恋人の元に駆け寄りながら、この場にいる第3者にするどく1つの指示を出す。
「松本」
「はい」
すぐさま何ごとも心得た十番隊の副隊長である松本乱菊が置いてあった水挿しから湯のみに水を汲み、それを雛森に差し出す準備をする。
「隊長」
「ああ」
乱菊から湯のみを受け取りつつ、雛森の顔を覗き込む。
「どうした?雛森。一体何があったっていうんだ?!」
無愛想でぶっきらぼうになってしまうのが生まれ持っての性分で仕方がないといえばないのだが、それでも出来るだけ感情が暴走しているらしい雛森を落ち着かせるために、柔らかいあたりになるように日番谷はゆっくりと言葉を紡いだ。
「──────」
しかし雛森は答えない。ただジッと一点を見つめ顔をムニムニと動かしている。
その奇怪な様子に日番谷は眉をひそめる。
「雛森??」
恋人歴はまだ短いが幼馴染み歴はかなり長い日番谷にしてもその雛森の表情は分析不可能だったのだ。
なのでその手がかりを探るべく固まったままの恋人の視線をまっすぐにたどり、彼女が結んでいるその一点が何であるかを確認した。
しかしそのことで日番谷はますます困惑した。そんなもの、というよりあんなもので雛森がこんな状態になるとは思えなかったからだ。
でも一応、何ごとも確認とばかり恐る恐る声を出す。
「…メロンパン?…」
雛森が見つめている先に在るのは雛森が駆け込んできた所為で中断されているが、日番谷が食べかけの昼食メニュー、毎月12日のパンの日にちなんでの月代わりパンメニュー『夕張メロンメロンパン(しかもなぜかパンダ仕様)』があっただけなのだ。
可愛いもの好き、綺麗なもの好きの雛森のことだから一瞬もしかしたら『パンダ柄にされてるパンを食べるのはかわいそう!もったいないっ!!』とかいう理由なのかも、と思ったりもしたのだったが、やはりそれではなかったらしい。
なので一応ホッとしたこともあって日番谷はほぅと小さく息をつくと、改めて命題にかかるための区切りとして1つの言葉を吐き出した。
しかしその瞬間に思いも掛けない反応が起こった。
「まさか牛乳っちゃあいわねぇよな」
「シロちゃんの嘘つき!!!!」
いきなりの大絶叫である。
「!!」
思わず半身日番谷は後ろに背を仰け反らせる。超至近距離で100メートル先まで聞こえそうなほどの大音量で叫ばれたのだ。鼓膜の奥がピィーンとはり、頭がくらくらしてしまう。
「雛森?!」
そのことに思いっきりしかめっ面をしてしまった日番谷に向かい、雛森はなおも叫びをぶつけた。
「シロちゃんの嘘つきッ!約束やぶりっ!!シロちゃんなんて大ッ嫌いっ!!」
「おっ、おいっ!!」
いきなりのその大絶叫、しかも思いっきり頬をふくらませた状態でのツーンというそっぽ向き攻撃に日番谷は日頃の落ち着きも忘れてしどろに慌てる。
「いったい俺が何をしたっていうんだよ?!雛森。全然ワケがわかんねぇぞ!」
「ふ〜ん、わかんないんだ?!」
だがそのことがますます雛森を怒らせたようで、雛森はますますさらなる限界に挑戦するように首をそらせ、完全に日番谷から顔を背ける。
「あたしとの約束なんてやっぱりどうでもいいってことなんだよね!!」
「『約束』?!」
雛森の言葉の中にあったその言葉こそがキーワードだと日番谷は察し、ヒントの欠片でもいいから何か浮かんではいないかと雛森の顔を凝視するが、まったくそれが浮かばない。
なのでちょっぴり短気な所がある日番谷はいきなり大嫌いと言われてしまったことに対するショックもあっていつもより早くイライラに達し、語気を荒げつつ言葉を発した。
「俺はお前なんかと約束した覚えはないぞ!!」
だがその言葉が売り言葉になり、続いて絶叫での怒鳴りあいが始まる。
「したもん!!」
「してない!!」
「したって!」
「何時した?!それなら何時?!」
「この前!」
「『この前』って何時だ?!」
「この前のデート!!」
「この前のデートってその時何した?!」
「キスしてそれから!」
「それから何した?!」
「約束したよ!」
「だから何した?!」
「もう『絶対飲まない』って───『絶対絶対飲まない』って」
「だから何を?!」
「『牛乳』」
「はぁ?!」
「だからシロちゃん、もう牛乳飲まないってあたしに約束してくれた!!」
「・・・・・・・ああ!。」
そこでやっと合点がいったようで、日番谷ははたりと手を叩き、それから微妙に顔をゆがめた。
「でもなあ、あれって雛森───」
「約束したもんっ!!」
日番谷の言葉を遮るように雛森は涙目の状態できゅっと表情を強めながら、日番谷に向かってまっすぐに、ただきっぱりと一言で言い切る。
「シロちゃんはあたしに『牛乳飲まない』って約束したもん」
だが当然こんな会話、しかもまったく意味不明についていける人間などいない。
「────隊長?」
だからごく控えめに、だがちょっぴり好奇心旺盛にふられた言葉に日番谷は小さく詫びる。
「ああ、すまない。このバカがまたくだんねぇことでダダこねててなぁ」
「くだらないことじゃないよっ!!」
雛森が噛み付く。
「どうしてそういうこというのかな?!シロちゃん。それともあたしとの約束だからくだらないことっていってるの?!」
「誰もそんなこと言ってねぇだろう?!」
さすがにその言葉に日番谷は怒りを現す。
「お前は何でも自分勝手に飛躍解釈のし過ぎなんだよ」
「でもっ」
「そういうことだ!」
言い返そうとした雛森の言葉を遮り日番谷は言い切る。
「俺は成長期なんだ、これからまだまだ大きくなるんだ。牛乳なんて飲まなくたって、いつまでたっても小さいままじゃいられねぇ、これからもっと大きくなるんだ。それが嫌なら俺と別れろ、無理ならそうだと諦めろ」
あまりに簡潔に、しかも淡々と言い切られたその言葉に今度こそ泣いて絶叫する。
「シロちゃんのバカッ!!」
途端日番谷の顔に決まったのはどうやら彼女の御持参らしい少し小ぶりの小さめの水筒。日番谷の顔にあたった時にはガホンと、そしてあたった顔に弾き飛ばされ、床に落ちたガツンという音を立て、その場にコロコロと転がっていく。
そしてその水筒すら追いこすように雛森はすくりと立ち上がり、叫ぶだけ叫んで出ていってしまった。
「もうシロちゃんなんて知らないから!!大きくなったシロちゃんなんて、絶対あたし、絶対入れさせてあげないからね!!」
結果、その場に残されたのは男が1人と女が1人、そしてうまれた奇妙な沈黙。
「「・・・・・・・」」
思わず淀んだその場の空気。そりゃ正直無理もない。こんな奇妙な沈黙はそう簡単に生まれやしない。
なのでそういったわけでしばらくは互いにただ沈黙しあいさぐり合うだけだったのだが、性格上というか役割上の問題で乱菊の方が先に口を開き、日番谷に向かって問いかける。
「────ねえ隊長、いったい隊長は大きくなったら雛森の何処に入れて貰えなくなるんです?」
「なんだ、松本、聞きてぇのか?」
途端、さっとその場を満たす霊圧。声も口調も穏やかだが、それとは到底不釣り合いな殺気以外の何者でもない感覚が乱菊の周りを取り囲む。
しかし日番谷と雛森の幼馴染み歴ほどは長くないが、日番谷と雛森の恋人歴よりは遥かに長い副隊長歴を誇る乱菊はその程度の殺気はなれたもので、自分のトコの隊長のわかりやすさに呆れすら感じつつ、いけしゃあしゃあとハッキリのたまう。
「いえ、別にいいですよ。頭の中に候補は3つ、ちゃんと浮かんでいますから」
まずは『家』、それから『ベッド』、そしてそれから────。
これ以上は下世話な想像だし、サイト検閲規定(??)に引っ掛かるので乱菊は思考を一旦停止し、それから1つの提案を年下で背の低い隊長にふる。
「そうだ隊長、代わりにあたしこの水筒に入ってるお茶かなにかもらいますから、冷蔵庫に入ってるあたしの分の牛乳のんじゃっていいですよ。あたしそんなに牛乳好きじゃありませんし、隊長とちがって牛乳必要としてませんから」
そう言って床に転がっている水筒を拾い上げつつ、ニコリとハッキリ笑ってみせる。
そんな乱菊の言い様に日番谷は一瞬目を見開いた後、すぐさま小さくニヤリと笑い、それから直後やけに澄ました神妙な様子でその提案に受け入れてみせた。
「そうだな」
1つ頷き、乱菊に向かってしたりと言う。
「あとは干涸びて枯れるだけのお前に牛乳は必要ねぇわな」
「隊長!!」
「クックックッ」
さすがのその言い様にカッと乱菊は蒸発するが、日番谷があまりにおかしそうに────いたずらが成功した子供の顔で笑っているので何だか苦情が言えなくなり、代わりにこんな言葉で1つ、再びからかうことにした。
「ま、じゃっ、干涸びるだけのあたしはほっといて成長期の隊長は頑張ってイヤ程牛乳飲んで雛森と立って出来るほど大きく成長してくださいな。でないと隊長いまのところ、雛森に縮んでもらわないと正直全然出来ないんでしょう?」
「松本、テメェ───」
その言葉に再び殺気がこもる。
「いったい何を考えた?────いったいどんなつもりで言った?」
「あら、隊長聞きたいんですか?」
今度は先ほどとは逆に乱菊の方からそう言葉をふり、それから先程同様の飄々さでニコリと笑って付け足してみせた。
「これもやっぱりさっきと同じで3つ程答えがあるんですけど?」
まずは『腕組み』、次は『キス』、そしてそれから、それから、それから────。
「────まっ、別にとりあえずそう急がないでもいいって、あたしはそう思いますけどね」
とりあえず妄想を中断し、乱菊は肩をすくめて笑う。
「どうも隊長より雛森の方がまだまだ子供で成長も遅いみたいですから、あんまり隊長が急いで大人になってしまったらあのコはもっと混乱しますよ」
「違いねぇ」
その言葉に日番谷も肩をすくめ、それから小さくクスリと笑った。
THE END.
日雛です。私はブリーチ新参者で、正直まったくくわしくないのでいつもなやんでいるのですが、日番谷×雛森は『日雛』と略すのが正しいのでしょうか?それとも『日桃』なのでしょうか?そしてそれぞれの読み方はいったい??前者は『ヒヒナ』で後者は『ヒモモ』?それとも『ヒツヒナ』で『ヒツモモ』だったりするの??
世の中本当に危険と疑問に満ちています。。こんなおバカな私に愛の手を(笑)
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