BLEACH 一護×織姫


Siesta






 


 一日が半分と少しすぎたあるうららかな日の午後、とある学校の屋上で1人の天然美少女が判る人にしか判らない寝言をつぶやいた。
「…ダッ、ダメよ黒崎くん!その玉の名前からちっちゃな『ツ』は抜いちゃダメッ!抜いちゃったら意味が変わっちゃって、それでその名前で叫んだらヘンタイさんになっちゃうよ!!…」
 そしてその寝言を受け、顔をしかめる男が1人。その寝言の中に登場している人物、黒崎一護である。
「ハァ??何いってんだ、井上?『ツ』を抜いたら『ヘンタイ』になるって、いったいどんな夢を見てるんだ?!」
 だが問いかけてみても熟睡中の彼女、井上織姫はいっこうに起きない。お昼ごはんを食べた直後だし、次の時間が自習ということで気が抜けているのだろう。屋上の中でも一番日当たりがいい特等席、一護が特別にと織姫に教えてやった給水タンクの前にあるこじんまりした空間で手も足もダランと伸ばしきり、ぐっすりと熟睡してしまっている。
 そんな様子に一護は苦笑する。
「たくっ、気持ちはわかるけど、無防備すぎ」
 この年頃の少女にしては特別短いわけではないけれど、それでもやはりかなり短くされているスカートが微かにめくりあがり、無駄な肉などほとんどついていない、白くて細い足が太ももの半ばあたりまで艶かしくさらされている。
 だが普通なら眼福ものの光景もあまり色香を感じさせない。というのは井上織姫という少女がグラビアモデル顔負けの豊満ボディーを持ちながらもそれを誇ったりする性格ではなく、天真爛漫、純粋無垢な幼さを残した少女だからだ。だからまずそれが先に匂いたち、周囲にそれをあまり意識させない。
 しかしそれでも年頃の男にとってこの無防備さは犯罪だ。イチオウでなく正真正銘『彼氏彼女』の自分なら触れてもそう罪には問われないはずだけれど、それでもここまで無防備なら欲に走るその前に正直とても心配になる。
 今日発見したのは自分だったからよかったものの、もしこれが他の男だったとしたら?───そう思うとぞっとする。
 だって恋人の贔屓目ではなく、それだけの魅力が彼女にはあるのだ。寝た子を起こし、男を簡単にオオカミにさせるそれだけの魅力が充分にあるのだ。
 それなのにそのことに無頓着で、平気でこうやって眠ってしまっている彼女。こういう女の子だからこそ好きになったのは確かだけど、それでももう少し警戒心というものを持って欲しいと切に願う。でないと心配で心配で一秒だって目が離せない。
 だからそんな思いで溜め息をつきながら、一護は自分の制服の上着を寝乱れた足下に掛けてやった。途端、織姫の口から再び小さな寝言がもれる。
「…だから黒崎くん、確かに『クワッフル』って何だか美味しそうに聞こえるけど、メープルシロップ掛けても食べられないって…」
「たくっ」
 いい気なものだとまでは思わないけど、それでも本当に気持ちよさそうに眠っている彼女の姿に苦笑する。っていうか、上着を足元に掛けられてまでまったく起きないそのことに思わず感心してしまう。
「ホント、よく寝てるよな」
 なのでそうつぶやき、小さく頬をつついてみる。
「…ぅうん…」
 くすぐったかったのか、小さく顔を左右に揺らし、一護の手を振り払う。
 その仕種が可愛くて、一護はもう一度頬をつつく。
 つんつん。
「…ふにゃあ…」
 先ほどよりはげしく頭を揺らす。
 つんつんつん。
「…ふにゃにゃ?…」
 だんだん不快になってきたのか、反応が大きく、明解になる。そのことに一護はほくそ笑み、伸ばす指先が大胆になる。
 つんつんつんつん。
 つんつんつんつん。
 つんつんつんつんつんつんつんつん。
「フニャニャッ…って黒崎くん?!…」
 さすがにここまでされれば起きざるを得なかったようで、織姫はまだ寝ぼけまなこの目を擦りつつ、自分を覗き込む形で自分の頬をつついていた一護を見上げ、それからひとつ小首を傾げた。
「黒崎くん、いったいどうしたの?」
 織姫としたら自分の部屋で2人っきりの時間ならまだしも、一応ガッコウであるこの場で一護のぶっきらぼうの相好がここまで崩れ、どう見ても楽しそう、面白そうになっていたことを疑問に感じ、そう問いかけたのだが、それを一護は何かと取り、それゆえこう説明した。
「いや、ただ遊んでただけ」
「遊んでた?」
 だがそう言われてもわからない織姫がもう一度小首をかしげて問いかけると、一護は頷いてニヤリと笑い、それから簡潔に言い切った。
「ああ、井上で遊んでたんだ」
 そうしてかすめとるかのように一瞬だけの軽い口付け。
「!」
 そんな一護らしからぬ言動と行動に織姫は一瞬目を見開き、それから頬を赤く染める。
「もっ、もうっ、黒崎くんたらずるいですぞ?!ここにあたしが居るというのに、1人で遊ぶのはよくないのです」
「ゴメンゴメン、けど」
 だがそんな抗議といっても弱くて甘い、テレと愛情がほとんどだ。だから織姫から発せられたその勢いはあるけれどきつくはない、甘やかな声に一護は笑い、慌てて起き上がろうとする織姫を手伝いながらもう1つ言葉を付け足した。
「俺が遊んでたのは『井上で』だから、だからかんべんしてくれよな」
 そうしてもう一度小さくキス。チュッとわざと音をたてるような、まるで子供をあやす口付け。
「〜〜〜〜//////////」
 そのことにもう織姫は声も出ない。
 キスどころかそれ以上のことだって全然しているのだけれど、こんなところでする優しいキスには正直完全無防備だ。心臓がドキドキして、バクバク言って、弾けて壊れてしまいそう。
「井上?」
 さすがにそうなるとやりすぎたかと思ってか、一護が織姫の顔を覗き込んだ。
 ベッドの中では信じられない程ダイダンなのに、ときおりキス1つ、抱擁1つで腰砕けになってしまうのだ。今だって全身真っ赤で目もウルウルだ。
 正直、こんなときの彼女が大好きで大好物な一護としてはここがガッコウでなく彼女の部屋かどこかなら即座に押し倒しそこから先を満喫したいところなのだが、もちろんここではそうはいかない。というか、むしろ学校でこの状態まで彼女を追い込んでしまったことに恐怖すら感じてしまう。
 怒られないか、嫌われないか、気がつけば彼女なしでは生きられない程愛してしまっているから、彼女の御機嫌を損ねることが、何より一番宇宙一恐い。
 だから彼女の顔を覗き込んでからたっぷり10秒後、頂点に達するほどの緊張を強いられているその最中に、甘くて柔らかい唇から吐き出された1つの言葉に、一護は思いっきり驚いた。
「────好き」
「・・・・・えっ!」
 思わず顔が赤くなる。
「黒崎くん好き、好き」
「ええっ!!」
 ますますもっと赤くなる。
「好き、好き、好き、好き。好き、好き、好き、好き」
 まるで呪文のような響き。
「ホントに好き。黒崎くんが大好き」
「!!!〜〜〜〜〜〜〜〜」
 もう暴走が止まらない。普段クールぶっている反動か、余計に全身くまなく赤くなり何だか泣きそうにすらなってしまう。
 そしてそんな一護を見て、同じく真っ赤でありながら、けれども少しは落ち着いてきていた織姫が小さく1つ手を叩いた。
「フフッ、黒崎くん、真っ赤っか!」
「!!」
 その言葉で一護はすべてを知る。
「おっ、井上、テメェ、俺をからかっただろ?!」
「違うよぉ!」
 もちろん手加減された、じゃれあいのようなものではあるが、しっかり羽交い締めされた格好で織姫は一護に言い訳する。
「あたし、からかってなんかないもん。半分はもちろん本気だもん!」
「ハァ?!だったら、残り半分は何なんだよ?」
「『遊び』」
「・・え?」
 一瞬思わず手をとめる。
 そしてそんな一護に向かい、織姫はニコリと小さく笑った。
「だから『遊び』。黒崎くんがしたのと一緒」
 そうして今度は織姫からの、かすめるような一瞬のキス。
 驚きの為、一護の口が半分半開き状態だったため、唇にするというよりも前歯にするようなキスだったが、それでもちゃんと重ねられた唇同士の感触に、一護はますます目を見開いた。
「・・・・・・こらっ!」
 だがその驚愕からすぐさま立ち直る。目の前の、ほんのすぐそこで織姫が本当に幸せそうに、満面の笑みで笑っていたからだ。
 だから一護も同じく笑い、軽くその手を振り上げる。
「このいたずらッコが!!」
「キャアッ!」
 もちろん本気で殴るつもりなど毛頭ない。ただのじゃれあい、甘い遊戯だ。
 そしてそのことはちゃんと彼女もわかっているから、大きめの声をあげて身体をそらして嫌がっているそぶりを見せつつも、それでも一護から逃げない。
 だからすぐにからみあい、溶け合う、2人の心と身体と手と手。重なりあって、求めあって、結びあって、いつしか1つに帰っていく。
「────愛してる」
「うん」
 そうして再び重ねられた口付け。
 いつだって甘いけれど、いつもより幸福なその感触に2人はしばし酔いしれた。

 
 



                                 THE END.





 イチオリの2作目です。おもいっきりトロ甘なのを、と思い、遠慮せずにいきました。
 でも実はネタ展開より苦労したのが織姫の寝言。設定として織姫は前日にとある映画を見ていたのでついこんな寝言を言ってしまった、という感じです。さてさて織姫がどんな夢をみてるか、なんの映画を観たかわかりますか??
 


 
 

 
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