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やめておけ、と言われたのに実行することにしたのは、ちょっぴり嬉しかったからだった。自分がまだ死神ではなく、それどころか現世で生きていた時にはなかった行事を教えてもらい何だか楽しそうだなぁと思ってしまったからだった。
だから雛森はちょうどお昼の休憩時間、十番隊の隊長執務室に勤勉で生真面目な彼以外いない時間を見計らい、いそいそとそこへ出かけて行った。
そして一応礼儀正しくノックして、それから自分の予測どおり彼しか居ないのを確認して一言、思いきった大声で日番谷に向かって言い切った。
「あたし、シロちゃんのことホントにホント嫌いだからね!!」
「?!」
その言葉にさすがの日番谷も目を白黒させた。そりゃそうだろう。いったい何処の世界に恋人同士としては最近付き合い始めたばかりの彼女に嫌いと叫ばれる男がいるのだ。
だから歳は見た目と比例していないから比較対象に出来ないが、見た目の倍の倍の倍は沈着冷静な日番谷でさえ、その真意を計るべく、冴えたその瞳に疑問の色を思いっきり浮かべ、雛森の一挙一動をうかがってくる。
なのでそのことに調子を得て雛森は再び思いっきり叫んだ。
「だからあたし、シロちゃんのこと大嫌いなのっ!!死ぬ程、ホント、思いっきり!ホントにシロちゃん大嫌いなの!!」
だがもちろんその言葉──その言葉達はウソである。ホントはそれのまったく逆、ホントにホントに大好きだ。
なのになぜ雛森がそんな言葉を叫んでいるのかと言えばそれは今日が4月1日だから、『エイプリルフール』だからだ。
5番隊の副隊長で、鬼道に関しては隊長格という括りではなく隊長たちとも肩を並べられるエキスパートである彼女であるが、女の子の分には漏れずおまじないとかジンクス好きだ。瀞霊廷内で発行されている『死神通信』に載っている星占いも信じているし、仕事で現世に赴いた際に葬儀をやっている場所の前を通りかかれば、自分同様もう二親ともとっくに死んでいるというのについつい親指を隠してしまう。
なのでそんなわけなので『エイプリルフールはウソをついていい日なんだって。しかもその日にウソをついた人は幸せになれるし、ウソをつかれた人も幸せになれるんだって』と他の隊の女の子達が話しているのを聞いてしまったからには当然実行するしかない。
で、だからターゲットとして選んだのが『日番谷』────自分を誰より愛してくれてて、自分も誰より愛している人だ。だって彼には余すことなく、誰より幸せになって欲しいのだ。だから多分こういったイベントごとに興味がなく、きっと今回のジンクスも知らない彼に幸せになって貰うには、自分が思いっきりなウソ───それも盛大なウソをつかねばと雛森は思いっきり頑張っているのだ。
だから思いっきりの声をあげて、何度も言葉をくり返した。
「ホント、シロちゃん、嫌いっ!キライッ!!」
しかし、それをくり返している内にだんだんと日番谷の表情が変わってきた。いぶかしみ、どうしていきなり雛森からここまで思いっきり盛大に叫ばれなければならないのか誰何しているのは同じだが、その中にそれとは毛色が違う感情が滲み始めたのだ。
しかし、『嫌い』をくり返している内にある意味せっぱつまってきていた雛森はそれが何ゆえかをよみ切れず、なのでそのまま同じ言葉を勢いに任せてくり返した。
「だから、あたし、シロちゃんのこと嫌い!!ホントにシロちゃん嫌いなのっ」
だが途端、その念を押すかのような雛森の言葉に向かい、否定というより停止の言葉が飛んだ。
「やめろっ!」
もちろんそう言ったのは日番谷だった。
「やめるんだ、桃。もういい──もういいから」
その最初の一声こそ強かったが、それ以降はまったく弱いその響きに雛森は思わず首をかしげる。
「────?」
だってだ、その声はまるでいたわりか、まるでなぐさめのようにさえ響いたのだ。そんなこと、もちろんウソというか、この場合冗談と言った方がいいのかもしれないが、とにかくここまで面と向かって『嫌い』を吐き続けている人間に向かって抱く感情ではないはずだ。
だから今度は逆にその真意を探ろうと日番谷の様子をうかがった雛森に対し、日番谷はゆっくりと近寄りながらこう言った。
「だからな、桃、もういいから──『嫌い』だなんて盛大なウソ、吐く必要なんてぜんぜんねぇから、泣きながら言うのはやめてくれ。それが本当だとしても、俺はお前が笑ってるならそれで充分なんだから、無理に自分をつくろって、俺にあわせることはない」
「え────」
その言葉で雛森は初めて自分が泣いているのに気がついた。そしてそのことに気がついた途端、激しく胸が痛み始めた。
「…ッ…────」
途端、涙がこれまで以上に溢れはじめる。
こんなに痛いのは初めてだ。大好きだった藍染隊長に騙され、どんな時でも自分を想い、自分の手助けをしようとしてくれていた日番谷を裏切り者と思い込んで刃を向けたその時でさえ、これほどの痛みをこの胸は訴えてきやしなかった。
しかし今はまさに張り裂けんばかりに胸が痛い。大好きな人に『大嫌い』ということがこれほど痛いことだなんてまったく思っても見なかった。
だってだ、無意識の内にそうあることを拒絶してしまっていたが、『大嫌い』なんて言ってしまえば、今度は逆に自分の方が本当に嫌いになってしまわれる可能性すらあったのだ。
そのことに関する自覚もあらためて含めて、雛森はどうしてつい先ほどまで嫌いを連呼出来たのかそっちの方を疑う程、胸が痛くて仕方ない。
そしてその結果崩れ落ちた雛森を日番谷は優しく包み込んだ。
「だからもう泣くんじゃねぇ、桃。俺はちゃんとわかってるから───さっき言った『嫌い』は全部好きの裏返しだってな。松本の野郎が御親切にも朝から今日が何の日かをくどくど説明していきやがったから、お前がそう言ったその理由も、全部俺にはわかってる」
その言葉の中に見つけた名前に雛森は目を白黒させた。
「乱菊さんが??」
そう言われれば、一番最初に日番谷に向かって『嫌い』のウソをつこうと思っていることを相談したのは乱菊だ。そして相談した途端根が真面目でこの様な行事を知らなさそうな日番谷が本気するかもしれないと、いつもなら面白そうだとノリノリになるのに、今回ばかりは盛大にそのことを反対してもいた。
だがその忠告を受けても実行することにした自分のために乱菊がに手をまわしておいてくれたのだろう。そしてそれは事実だったようで、日番谷は1つ頷いた後、こうその時の様子を説明した。
「ああ。だけど、まあ、その時にどうしてそんなこと言ってるのかわからなくて、松本の野郎、追い出しちまったけどな」
そう言って苦笑半分作り笑い半分で笑うその姿に、雛森は思わず小さく笑ってしまった。
「フフッ」
だってだ、そう言ってみせた日番谷のカオはまさに『シロちゃん』だったのだ。護廷十三隊の最年少の隊長で、氷雪系最強の斬魄刀『氷輪丸』の使い手、十番隊隊長『日番谷冬獅郎』ではなく、自分の幼馴染みでそして自分を誰より愛してくれている優しいシロちゃんのカオだったのだ。
そのことが嬉しくてしかたなくて、これまでとは違った意味で、ポロリと涙が1つこぼれた。
そしてそんな雛森の目からこぼれおちた涙と、何よりこぼれ落ちた笑顔に日番谷は困ったように瞬間頭をぽりぽりかくと、続け様再び雛森をぎゅっと抱き寄せ、その耳もとでこうささやいた。
「だから心配するな、桃。俺はちゃんとお前が『嫌い』だ。お前のことを世界の誰より、ホントに本気で『嫌ってる』。それこそ死ぬ程、それどころか、俺が死んでも、それ以上だ」
その何処かつながっていないけれど、万感の思いが込められたウソの言葉に雛森は幸せな気持ちで大きく頷く。
「うん───」
─────こうしてこれから先何百年も一緒に歩んで行く恋人同士の最初で最後のエイプリルフールはそれなりに幸せな日となったのでした。
THE END.
エイプリルフール1日限定の再録です。本当はもっと後にアップし直すつもりだったのですが、公開してた時間が22時間のみだったのでちと早めにアップ。
ヒッツーはイベントにうとそう、というのが私の個人的見解。ただし雛森の誕生日と結婚記念日は別ですが(笑)
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