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不思議な感覚────不思議な予感。
『…………………はあ………どうも………』
────彼女のこの第一声を手にした瞬間、何故だかまだ幼さすら残ったその少女が自分の運命を握る女だと理解した。
愛ではない、ましてや恋などでもない。でも大切で、決して失うわけにはいかないとただひたすらにそう思った。
だからとりあえず告白した。────いや、告白というより、白状と言う方が正しかろう。元からの家族と将来誕生してくれる家族以外、自分の心の深い部分には住ませはしないと誓ったのに、それなのに死神である自分たちの感覚で言えば舌の根も乾かぬウチにその誓いを破ったのだ。
だから誰より愛する己の妻にそのことを素直に告白した。するとその告白を受けて、彼女は目をしばたかせ、それから困ったように笑ってみせた。
「────で、いったいわたしはどうすればいいのかしら?」
その言葉に返された男も首を傾げた。
自分が彼女に紡いだ言葉は正直かなり自分勝手、責められなじられ非難されて当然なものだと思う。それなのに手が届くすぐそこにいる彼女の顔にそういった系統の色はほとんどない。
だが『まったくない』でなく『ほとんどない』、つまりイコール『少しはある』という理由に疑問を感じずにはいられない。
何故なら彼女は怒ってはいるのだが、それは明らかに自分が告げた内容に関することというより、それに対する返答のしようが難しいから怒ってる、そういった感じのものなのだ。
このような事態はまったくの想定外、予想していなかったことだ。だから揺らがずにはいられない。
だがしかし同時に奇妙な安堵感も感じた。何しろ彼女は美しく、聡明で、護廷十三隊きっての才媛の1人でありながら、ときおりかなり独自の世界を展開する人だ。突如自分の妄想にひたり、何もないところを見ていて急に笑い出したかと思えば泣き出したりしてしまう一風変わった性格の持ち主だ。
でもそんな彼女だからこそ愛した自分だから、この場においてのその返答が彼女らしかったことに安心したのだ。何しろ彼女は自分からの1の言葉で10のことを読み取ってくれ、そしてその為にいつも自分自身のことを後回しにしてくれる人だからだ。だからもし返された返答が在り来たりな言葉であったなら、それはウソだということだ。自分を傷つけない為に、自分を思いやってごまかす為に口にしたいつわりの感情だということだ。
だから意味合いは違っているのだが、それでも怒りを示してきたということは、本当の意味で怒っていない────自分の言葉を正しく受け取ってくれたということ。1人の女として、一緒に生きていきたい女は今も昔も未来も変わらず彼女だけだという真実を信じ切ってくれているということ────愛し抜いてくれているということだ。
自分も心から────魂から愛し、他の何と比べても天秤に掛ける必要などないほど自分にとっての重きであるその人に、そこまで愛されているのだと知り得た真実にますます愛おしさが降り積もる。
でも同時に、だからこそ申し訳なさが際立つ。
ここに居てくれている人はまぎれもなく自分にとって一番大事な、世界で一番愛している人。だけどあの少女も大事なのだ。
何故ならまだ予感だが、確信としか言えないほどの強さで自分の魂が自分自身にそうハッキリと告げてくるのだ。あの少女は文字どおり、自分の運命を握る人────自分の運命を変える人だと。そしてその運命は自分にとっては救いであるが、ここにいる、これほどまでに自分を愛してくれている人にとっては到底救いとはならぬもの────むしろ深い絶望とすらなりうるものなのだ。
でもその運命が彼女にとって絶望になりうるものだからといって申し訳ないのではない。もちろんそれはすまないと思うし、申し訳ないことだとも思う。
けれどそれ以上にこの場に於いてもうしわけなく、心からすまなく思うのは、彼女にとって絶望となるやも知れぬ運命をすでに自分が受け入れてしまっていることだ。あらがって、打ち壊して、そして別の道を切り開こうとすることすら考えずに、あの少女に運命を握られたまま、それを受け入れようとしていることだ。
だってだ、もしこの予感が自分自身のことではなく、他人のことであったなら自分は激しく叱咤し、そして共に戦うことを誓ったはずだからだ。『諦めるな』と────『そんな弱気でどうするんだ』と。
なのにそうすることを否定どころか存在すらさせず、自分はただこうしてここに居て、これからもこう居ようとしている。
そのことが彼女に申し訳なくて仕方がないのだ。愛してるから────心から愛してるから、申し訳なく思うのだ。
だからこそ言葉を見つけられず、ただ心から愛しいと思うその想いだけで、彼女を見つめ続けていたら、彼女は自分の意識を自分の言葉に向けさせる為にわざと深く息をつきつつ、大きく肩をすくめてみせた。
「────ねえ、あなた」
その呼び声に半分羽ばたかせていた意識をもどして彼女を見つめなおすと、それを受けて彼女は小さくクスリと笑い、こんな言葉を紡ぎ出した。
「あなたとわたしでしたらどちらの方があなたのことをよく知っていると思います?」
「────え?」
その言葉に一瞬目をしばたかせると、彼女はもう一度小さく笑ってそれから胸を張り、自信ありげに言い切った。
「賭けてもいいけどわたしの方があなたのことをあなた自身の千倍は確実によく知ってると思うわ。だからあなたの杞憂なんか、わたしにとってはお笑いなの」
「『お笑い』?!」
さすがにその言葉────自分が紡いだ言葉の真意を知ってて言ってるならなじられるよりキツいその言葉に思わず顔をゆがめると、彼女は笑ってたからかに、正々堂々頷いた。
「ええ、そう!」
そしてそれからその場でくるりと背を向けてしまい、最愛の夫から表情が見えぬその位置でこう言葉を付け足した。
「だから心配なんてしなくていいの。あなたはあなたの道をいけば────あなたの望むように生きれば。彼女がその為に必要な人だってこと、わたしはちゃんとわかってるから」
「!────」
「だからね、あなた」
その言葉に思わず目を見開いた男に向かい、ニコリと笑って彼女は言った。
「あなたは『あなた』らしく、あなたの思うままに生きてね。その姿をわたしはいつだって一番近くで見守って、一番誇りに思うんだから。きっと今生だけでは飽き足らず、来世で生まれかわってもね」
────そうしてそれは事実であり、事実となって実行されることになるのだが、この時彼は彼女の言葉に込められていた本当の意味────誰より彼を愛する彼女によって巧妙に隠された真実にまったく気がついてはいなかった。
そうして時代は廻り、輪廻も廻り、遠い昔なら人1人が生きて死ぬだけの時間が経過した後、2人は彼女の宣言通り、再び巡り会った。
「初めまして、黒崎くん。井上織姫です」
「おっ、おうっ、よろしくな!井上」
この出会い────いや再会が何を意味するか、未だ誰も何も知らない。
THE END.
タイトルとずれてるのでは、と思われそうですが、私的には合ってるのでこのまま。。
作中からだと深読みしてもらわないといけなくなるのですが、生きるということはすなわち死ぬことと直結しています。なので『彼女』は最愛の夫に『自分らしく生きろ』と言いながら同時に裏の意味で『自分らしく死んでかまわない』と言っているわけです。だからわかりやすくタイトルに捕足をすると『どうか君が、迷うことなく、《ご自分を》殺めますよう。』っていうコト。
あえて名前は出してませんが、誰と誰の話かわかりますよね??(心配。)
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