BLEACH 一護×織姫


To do it on a special day





 卑怯で卑劣な手段だけれどしっかり仕込みはしておいた。それは今からさかのぼること7日前、7月7日という日のこと。
『もしかしてさ、井上、今日が誕生日だったりする?』
 だって今日は七夕だから───そんなことをほのめかしつつ問いかけたその言葉。実は彼女の誕生日がまだまだ先のことだってちゃんと知ってたりしたワケだけど、それが次へと続いていく言葉になると確信して、だからそう聞いていた。
 すると案の定、思った通り、彼女はこう返答してきた。
『ううん、違うよ。名前が『織姫』だから皆によくそう言われるけど、9月3日生まれなの』
 そしてそれから当然のように、話の流れとしてこう言い出した。
『じゃあ黒崎くんは誕生日いつ?あたしより『お兄さん』?それとも『弟くん』だったりする?』
 ───そう、これこそが卑怯で卑劣な俺の計算。きっと彼女のことだからこう聞いてくると確信してたんだ。だから内心はかなりガッツポーズで、だけど平静を装いつつ、ちょっと笑ってこう返事した。
『そうだな、少し『お兄さん』。今月の15が誕生日なんだ』
 これで万事すべてOK。こうすればちょっとでなくかなり気になる女の子から誕生日を祝ってもらえるハズだった。
 が、しかし浮かれてた所為で昨日になってやっと気がつくことが出来た『不幸』。今年の自分の誕生日は平日じゃなくてガッコウ休みの週末の土曜日。まだ彼氏彼女じゃないってのにそれじゃあその日に会えるはずなく、下手すりゃモノさえもらえない。
 なので『今日』に期待して一日井上からの呼び掛けを待ち続けてたワケだけど、それは全然やって来ず期待外れとなってしまった。
 そうして訪れた運命の時───せめて言葉だけでも貰いたいと一緒に帰ろうと声を掛けようとしたそんな放課後、授業終了のチャイムが鳴るなり、彼女は挨拶もそこそこに教室を飛び出してしまった。
『じゃあね、黒崎くん』
『おっ、おう!…』
 そう言って走り出していくその背中を追うことは出来なくて、生返事を返すしか出来なかった。
 そんな所為もあって空しく消えていった『今日』。プレゼントが欲しいなら───明日を一緒に過ごしたいなら、姑息な仕込みなんかせずに誘ってねだれば良かったのになんて後悔したってもう遅い。これも全部カッコつけな性格と捨てりゃいいのに抱えたままの下らないプライドが全部原因。
 だからそれでむしゃくしゃしてて、少し───いやかなりストレス発散も兼ねてしまった虚退治の帰り道、偶然彼女を見かけてしまった。そのことに驚いて思わず声を掛けてしまう。
「井上?!」
「!!、黒崎くん!」
 驚いて見開いたその表情。相当びっくりしたみたいで、そうでなくてもこぼれそうなほどに大きな目が思いっきり見開かれてた。
 だけど驚いたのはこっちの方。だって井上が歩いていたのは実に俺の家近く。しかも日が暮れたどころじゃない、日付けが変わりそうなそんな時間。
 同じ中学出身だからそう遠いわけじゃない。けど、井上の住んでるアパートからじゃかなり離れたこの場所を歩いてるなんて普通じゃない。コンビニだって、24時間開いてる本屋だってまったくの別方向。だからどうして?!と思ったってこればかりは不思議じゃないハズ。
 だけど突然声を掛けられてビックリしてたのは彼女の方も同じことで、ある意味俺の影響で霊が見えるようになってしまった井上は、魂だけの俺とその格好を見て気遣わしげな表情をした。
「黒崎くん、お仕事だったの?こんな時間に大変だねぇ」
「まあな」
 だけど半分以上自分から進んで、自主的にやってることだから、その意味も込めてこう返答する。
「けどこんなの全然大変じゃねぇよ。ひどい時なんか寝てて夜中に3回とか4回、呼び出しくらったりするんだからさ」
「そうなんだ」
 けど俺が返したその言葉は余計に彼女に心配させたようで、一瞬瞳を曇らせた後、それからニコリと笑ってきた。
「けど気をつけてね、黒崎くん。虚になった人たちやその虚に襲われちゃった人たち救ってあげることも大切だけど黒崎くん自身も大切だよ。無理し過ぎて身体壊したり、怪我なんてしないでね」
「ああ」
 頷きながらやっぱり思う。井上はすごい、『すごい』って。
 普通さ、思ってても───いや、思ってるからこそそんな言葉言えないよな。親切ぶって、いい人ぶって、偽善者ぶりたい人間なら平気で口に出来るだろうけど、本気でそう思ってたら恥ずかしいし照れくさいしで簡単に言葉に出来ないハズ。
 だけど井上は躊躇わない───そんな言葉を言うことで変に思われたり、誤解されたりするリスクをちゃんと知っててわかってても、それでもそれが言えるんだ。思ってるだけじゃ思いは伝わらない、それは正しく祈りにならないって、そのことをちゃんとわかってるから、だからこうやって言葉にして、言葉に直してくれるんだ。
 それが嬉しくて、まぶしくて、つまらないことでイラだってた自分に反省して、それから1つ気が付いた。
「あ。でもどうしてこんなトコ歩いてんだ、井上?たつきの家にでも行くところか?」
 それ以外、こんな時間の外出の理由を見つけられなくてそう井上に問いかけたら、彼女はびっくりしたようにあわてて首を振って、思いっきり否定した。
「!、ううんっ!!」
「?!」
 だがそのあまりの驚きっぷり───それから顔のみならない全身の赤くなりっぷりにこっちの方こそ驚かされる。そんなに変なこと聞いたわけじゃないし、答えに窮する問いでもないだろ?
 けど井上にとっては相当びっくりだったようで、そんな風に否定しまくった後、その激しすぎる勢いでこんなことを言い出した。
「『行くトコ』は『行くトコ』なんですが、目的地が違いといいますか、さてどうしましょう?と言いますか」
「ハァ?」
 井上が突拍子もないことを言い出すのはいつもの話。けどさすがにまったくつながらない、疑問符まで含んで返されたら、こっちとしても困るしかない。
 だから出してしまった疑問の声に井上はますます全身赤くして、それから清水の舞台から飛び下りるようなそんな感じで、慌てて続けてこう言った。
「だっ、だからね、実はあたし黒崎くんチに───黒崎くんのおウチの方に行く最中だったのです!!」
「えっ?!俺んチ?!?」
「はい」
 びっくりした、どころじゃない、聞き違いか幻聴か、それとも激しく井上のいい間違いか、絶対そのどれかと思ったくらいだ。
 けど本当だったらしく、井上はこくんと頷いて、それからすごく恥ずかしそうに言葉を続けた。
「だって明日黒崎くんのお誕生日でしょう?だから妹さんたちとかお父さんは別にして、ぜひあたしが一番に黒崎くんに『おめでとう』と『ありがとう』を言わせてもらいたかったのです」
 だからそうするために朝まで俺を待っているつもりだったと───家族や俺が起き出すつもりまで静かに待ってるつもりだったと、いたずらがばれた子供のように肩をすくめてそう笑った。
 だから俺はその井上の笑顔と井上からのその言葉に胸がじんと熱くなった。
「井上───」
 調子にのってるつもりはねぇけど、もしかしたら井上は俺のことを好きなんじゃないかと近ごろそう思ってた。けどまさかここまで思われてたなんて思ってなくて、そのことが嬉しくて、だから思いっきり気が付いた。俺は井上のことがもう『気になってる』んじゃなくなってて、『好きになってた』んだってことに、そのことに気が付いたんだ。
 だからそのうれしさ半分、それから派生した想い半分、とりあえず井上に礼を言う。
「ありがとう、井上。嬉しいよ」
 けど見のがせないことも同時に1つ見つかってたから、とりあえず先に言っておく。
「だけどこんな時間に女1人で出歩くなんて危ねぇぞ。それこそ自分を大切にしろ。こんなことで井上が変な目にあったり、怖い思いしたらと思ったら、正直俺いい気しねぇし、井上にそんな無茶させた俺自身が許せなくなる」
 その俺の言葉に井上の目がみるみる潤んだ。
「黒崎くん───」
「いっ、井上?!」
 それでキツく言い過ぎたかと思って慌ててその顔を覗き込むと、井上は泣きそうな顔でニコリと笑って、それからこう言った。
「ありがとう、黒崎くん。心配かけてゴメンね」
 そう言って笑ってる井上の顔があんまり綺麗で可愛くて、ホントに嬉しそうだから、俺は何も言えなくなって、ただ頷き返すしかなかった。
「おっ、おうっ!」
 だってこんなの反則だぞ!絶対不意打ち過ぎる。今は魂だけだから心臓の方はここにはねぇけど、あったとしたらバクバクもんで、死んでもおかしくなかった程の衝撃だ。
 なのに、相変わらず鈍感で、無自覚な井上は俺がその所為で大変な目に合ってるのに気が付かず、仕切りのようにニコリと笑って、それから俺にこう言った。
「じゃっ、あたし帰るね、黒崎くん。ご迷惑かもしれませんが、明日の朝一番にお邪魔させていただきます」
 その言葉に俺は慌てた。
「ちょっ、ちょっと待てよ、井上、送ってく」
「いいよ〜」
「いいから、ってか、よくねぇ」
 笑って拒絶する井上にそう言い切り、有無を言わさぬように付け足す。
「身体に戻ってすぐ来るからここで待ってろ。だから絶対ここから動くンじゃねぇ───いや、俺の家まで一回来いよ。その方が安心だし、安全だ」
「黒崎くん───」
「じゃ、行くぞ、井上」
 そう言って付いてくるように歩き出す。そしたら少し躊躇ってたみたいだけど、井上はいつもの特徴がある歩き方で俺の背中を追ってきて、そして並んだ。
「ごっ、ゴメンね、黒崎くん。迷惑かけちゃって」
 そう、しゅんとしながら謝ってくる井上に、らしいな、と思いながらそうじゃないんだと否定する。
「別にこんなの何ともねぇよ。それどころか嬉しいし」
「え!、嬉しいの?!」
 そしたら井上はまたびっくりして、おかしなほど大きく目を見開いたから、俺は澄ました顔をして、それからこう言ってやった。
「ああ。好きな女に迷惑かけられて嬉しくねぇ男はいねぇよ。それだけぐっと、ずっと近く───側に居れてるってことなんだから」
「くっ、黒崎くん!!」
 その俺の言葉に真っ赤になって固まってしまった井上を連れて、俺はいったん家に戻り、それから今度は生身の身体で元来た道を歩き出した。『明日』というか、もう『今日』になってしまってる、デートの約束を取り付けながら───。


   THE END.   






 黒崎さんバースデイですvvで、書き終えてから気がつきました。。『作中で織姫ちゃんがさっさと帰ってしまった理由がでてねぇ』。。ここで書いても仕方ありませんが、織姫ちゃんは黒崎くんの為にチョコレートクッキーを焼いておりました。しかも山程。本当はケーキにしたかったんだけど、熱い時期なので日持ちやとけることを考えて、ということで。。
 なんかエッチテイストがまったくない黒崎さん視点は難しいなと思い知りました。精進せねばなりませんな。。



 
 

 
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