何度もキスを重ね 12月を奏でよう
君との日々に 僕は生きているよ
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新年がすぐそこにさしせまった年末、フィルモア皇帝ダイ・グはこの時少しヒマだった。というのは、新年を迎えた日の早朝、日の出と共に愛機であるプロミネンスで祝賀の模範試合をすることになっており、現在はその打ち合わせをしている最中なのだが、実際は試合といっても型の決まった演舞でしかなく、それゆえ実際に操縦するのは騎士ではなくファティマなので、その指示に従っていればすむような代物であるからだ。
だから彼のファティマであるチャンダナは、彼のカタチばかりの対戦相手である皇帝代理騎士であるハイランダークリスティン・ビィのファティマ町と先ほどからずっとクリスティンの機体であるネプチューンとプロミネンスを連結させ、動作の確認や整備の調整を行い忙しくしているのだが、彼自身は彼女らのその作業が終わるまで出番がなく、まったく何もすることがないのだ。
それゆえ何故だか出来てしまった空白の時間を、ダイ・グはしかたなく侍従に命じて用意させたMHの格納庫には似つかわしくないテーブルセットに着くことで埋めることにした。
でもそれがあまり上手くいかない。というのは、白磁のカップに注がれた紅茶があまり美味しくないこともそれに起因しているが、それ以上にこの格納庫の中には彼と同じようにヒマをしている人間がおり、その人間を気にせずにはいられないからだ。
彼の為に戦い、彼の為に死ぬ覚悟をしている少女クリスティン────彼が贈った、祖母慧茄から譲られたイヤリングを耳元で揺らす美しき少女は、その身を限界まで縮こまらせ、格納庫のすみっこでただただ息を殺している。
幼き頃に民間人を殺してしまった過去を持つ彼女は何時だって、特に自分の前ではそのようにすごしている。そうしておかなければ罪を償うためだけに生かされ、人を殺し続けることだけを義務とされている彼女は、自分達の関係を心無い者に邪推され、悪し様に言われることを熟知しているからだ。
そんな彼女のことを公人として、皇帝としてそう思うことは許されないと思いつつも、私人としてのダイ・グは痛ましく思う。
まったくの事実無根なら正々堂々していればいい。けれど許されない恋と知りつつも───誰にも認められず、知られるわけにいかない恋としりつつも、自分達は互いに惹かれあってしまった。
だからなおさら彼女は皇帝たる自分の名を汚さぬ様、その立場ゆえ愛の言葉ひとつ吐いてやれず、その華奢な身体を抱きしめて大丈夫だと言ってもやれない男の為に、必死で恋を押し隠し、責められるなら自分1人となるように、そう思い続け、行動し続け、そして祈り続けているのだ。
それほどまでに愛されて愛し返さない男がいったい何処の世界にいるというのだ?過去に犯した罪の償いとして、幸せになることはもちろんのこと、敵を威嚇したり、味方を鼓舞する目的以外で笑うことすら許されていない少女から寄せられる献身に、心動かされない男がいったい何処の世界にいるというのだ?
だからダイ・グは何もしない。もちろん客観的、第3者的視点からみれば内に芽生えた彼女への思いを消すことが一番いいことだとわかっている。けれどそんな努力をしても思いを消せないことはわかっているし、それにそうしないことだけが苦しいだけ、悲しいだけと知りつつも、それでも自分を愛し続けることを選んでくれたらしい彼女に対し、ダイ・グがたった1つしてやれる、捧げてあげられる誠実だからだ。
それゆえ恋を捨てない代わりに出来るだけ彼女と距離を置き、周囲が安心するように騎士としての彼女以外に無関心なそぶりをし続けることにした。
けれど若いということを言い訳にするぶざまを自分に許したくないが、それでもそれは少し切ない。それが今のように自分達の不利益を決して他人に明かすことがないファティマたちをのぞいては誰も居ない場所であればなおさら。
だから許されないことだと知りつつも、後々絶対後悔することになると自分自身で確信しつつも、ダイ・グはその衝動に耐え切れず、彼女を呼んでしまった。
「ハイランダー」
途端彼女の身体が小さく震える。
「───!…」
声に反応してあげた瞳は不安と渇望で揺れていた。どんな理不尽な願いでもそれを彼が求めるというのなら、それにどんなことをしても応えようという絶対的な意志と共に。
だからその瞳の確かさにダイ・グはもう一度彼女を呼ぶ。
「ハイランダー」
そして続けて命令する。
「こちらに」
その一言に導かれ、クリスティンはダイ・グの着いているテーブルの斜め前に進み出た。
「はい、陛下」
だがそんな彼女に向かい、ダイ・グは重ねて命令する。
「もっと近くに」
「はっ、はい」
慌てて頷き、間の距離を半分につめる。けれどそれでもダイ・グは納得しなくて、さらに言葉を重ねて命じる。
「もっとだ、もっと近くに」
「はっ、はいっ」
頷き、返答を返すが、クリスティンは一瞬惑う。すでにどちらか片方だけなら無理だが、互いが手を伸ばせば指先が触れ合える程まで近くに歩み寄っていたからだ。
けれどそれがダイ・グの望みならと、クリスティンは更に半分残りの距離をつめた。
だがそうするとダイ・グを見下ろすことになってしまうので、クリスティンはその場で膝を折り、礼をとる。
「何でございましょうか?陛下」
するとダイ・グはクリスティン的には実に唐突に、クリスティンに問いかけた。
「そちは甘いものが好きか?」
「───え?」
そのまさかの内容にクリスティンは目を白黒させた。だがそんなクリスティンに向かい、ダイ・グは同じ問いをくり返す。
「だからそちは甘いものは好きか?ハイランダー」
「はっ、はい!」
その問いかけにクリスティンは慌てて頷き、そして同じく慌てて付け足した。
「はい、陛下、好きです、大好きです!!」
でも実はそう言いながら、この年頃の女の子にしては珍しくクリスティンはそう甘いものが好きではなかった。
なのにそう答えたのは理由はわからないけれどダイ・グの言葉の響きと向けられた視線からそう答えなければならないと───そう答えることを彼が望んでいるとそう思ったからだ。
そしてその推測は当たりだったようで彼は満足そうに頷き、それからさらに付け足した。
「そうか───ではこれを」
そうして差し出されたモノにクリスティンは再び目を見開いた。
「──え?」
というのは、ダイ・グがその指でつまみクリスティンに向かって差し出したものは、彼が飲んでいる紅茶に添えられていた角砂糖だったからだ。
そのことにさすがにクリスティンは動揺を隠せず、恐る恐るダイ・グに問いかける。
「…あっ、あの、陛下?」
だがそんなクリスティンにダイ・グは構わず、さらにそれを突き出した。
「さあ」
「はっ、はい」
そのことでワケがわからないまでもクリスティンはそれを受け取ろうとうやうやしく両手をそろえて差し出した。
しかしそんな彼女の態度にダイ・グからの叱責が飛んだ。
「そうではない」
「えっ?!?」
その予想外の反応に驚いたクリスティンが顔をあげると、それを狙い澄ました様に、彼女の薄い唇に、固くて硬質なモノがあたった。
「!?!」
思わず再び目をしばたかせるほどクリスティンを驚かせたそれは、ダイ・グが彼女に与えると言った角砂糖だった。
だが自分の唇にあたったのが角砂糖だと理解すると、クリスティンはますます焦る羽目になった。何故なら当然角砂糖が自力で飛んできて自分の唇に当っているわけではない。現在進行形でその角砂糖をダイ・グがその手でつまみ、彼女の唇に痛くならない程度の強さで押し付け続けているのだ。
そしてそうなると当然、角砂糖はそんなに大きなものではないのだから、彼の指先が自分の唇に触れるになる、というか触れている。
そのことに関する理解がクリスティンを困惑させ、そして全身くまなく真っ赤にさせた。
「ッ!!───」
手に触れられたことはある。叱咤激励のために肩や二の腕を叩かれたこともある。けれどこんな場所───明らかにそれ以上の感情を持っていなければ普通は触れたり触れられたりしないはずの場所に触れたことなど初めてだ。
だからそのことに対しての恥ずかしさやテレから真っ赤になってただ目を見開いたままでいることしかクリスティンは出来なくなってしまったのだが、そんなクリスティンに対しダイ・グはまったく表情すら変えない平生とした様子で、促す言葉を1つ吐いた。
「さあ」
そうしてさらに微かに強く角砂糖を唇に押しあてられたことで、クリスティンは薄い唇を少し開き、彼が望んでいるようにその構内に白い塊を受け入れた。
途端、だ液と熱で角砂糖が溶け出しクリスティンの口内を侵しだしたが、そんなことどうでもよかった。何故なら角砂糖と共にダイ・グの指先も彼女の口の中に侵入し、そこで留まってしまったからだ。
その感触と感覚にクリスティンはめまいがする───何よりその現実にめまいがする。
自分を見下ろすダイ・グの瞳はただひたすらにまっすぐだった。そこに恋もなければ愛しみもない。ただひたすらにまっすぐで、クリスティンだけをただ見ている。ただ1人クリスティンだけを───。
だからクリスティンは口の中にねじ込まれた指先を甘く噛んだ。キズどころか噛んだ形跡すら残さぬほどに、ただ緩く、小さく噛んだ。その時自分が泣いてることにまったく気が付かないままで、ただ甘く、そして優しく噛んだ。
そしてそのクリスティンが噛んだ自分の指にダイ・グは唇で触れ、その後自身で同じように、まったく同じ場所を噛んだ。
「───甘い、な」
そうつぶやいたその声にはすでに後悔が滲んでいた。この甘さを知ってから後、再び求めず生きていくのはどれほど辛いことだろうかと瞬時に悟ってしまったから───。
けれどそれを望んだのは自分だからとダイ・グは彼女が噛んだのと同じ場所を今度はかなり強めに噛んだ。途端、プチリという音を立てて皮膚がさけ、口内に鈍い鉄の味が広がり甘さを過去にし始めていく。せつなさだけをそこに残し───愛しさだけをそこに残して。
THE END.
あまりにKinki KIdsの『Harmony of
December』が素晴らしすぎてインスパイアされてしまい、つい突発でやってしまった06年クリスマス企画(?)の作品の1つです。この話ってかネタを思い付いたのは冬コミの最中だったので作品アップは年を越してからという遅れっぷりでしたが。。
実は書き始めるまでは指プレイ(←おいっ)じゃなくて、本当にキスする、しかもかなり激しいディープキスする予定だったんです。けど書いている内に『本当にしたらダイクリじゃない』とこのように変更。さてはてどちらがよかったですかね〜
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