はじめちゃんが一番! 亮×はじめ


Trick and Treat !!





 ある意味それはいつものように、のんきで平和に声が響いた。
「ねえ、はじめちゃん、『Trick or treat !』」
 そう言って実に楽しそうに笑っているのは、日本を代表するアイドル『WE』の片割れ江藤亮である。
 クール&パーフェクトを売りにしている実力も人気もナンバー1の彼は性格的な問題もあってテレビやグラビアの中にいる時は、冷たさすら感じさせる程整った微笑を浮かべている。しかし親しい人間の前では実年齢よりも遥かに幼い表情を見せることが多々あり、今もそのアイドルの彼しか知らない人間がみれば垂涎モノの、ありえないほど嬉しそうな崩れた表情を浮かべている。
 がしかし、彼のそんな表情を見飽きるほどに見てきているはじめにとってそれは差程大したものではなく、だから彼の発した言葉の方にこそ、重きをおいて問い直した。
「はい?何言ってるんですか?江藤さん」
 そう言うはじめの顔は怪訝そのものである。貧乏ゆえにある意味世間知らずなところもあるはじめだが、さすがに最近では一般的になってきた欧米の風習であるハロウィンはさすがにわかる。だから彼が口にしたそのイベントでの決まり文句の意味ももちろん知っているのでそれを不思議がったワケではない。というか、思い出すだけでも腹立たしく恥ずかしくて仕方がないのだが、彼が先程彼女に向けた言葉を武器に彼女の5人の弟達は行く先々でお菓子をたかりまくり、微笑を通り越して苦笑を散々あびせられてきたところなのだ。
 なので逆恨みもいいところなのだがこのイベントを恨みに思うはじめはこのイベントを抹殺してやろうという思いまでこめて、亮に対してこう言い返した。
「ここは日本ですよ、日本、神国ニッポン!!八百万の神が住むこの国で、お菓子もいたずらもありません!!」
 そう言い切る迫力たるや、並みの人間なら『はい、そうですか…』と素直に引き下がるものである。
 しかし、並みの人間ではないのが江藤亮という男である。この凄まじい迫力のはじめを前にしても何処吹く風で、それどころかそのはじめの言葉の揚げ足すら取り出した始末だ。
「ハハッ、それはおかしいよ、はじめちゃん。確かに神国かもしれないけど、お菓子はちゃんとあるでしょう?いたずらだってそりゃもちろん」
 からかうような口調ならまだしも、ごく自然に淡々と事実としてそう告げられたものだから、余計に逆上して、はじめの怒りは頂点に達する。
「江藤さん!!」
 それなりの長い付き合いだから、慣れてるって言えば慣れてはいるが、それでも彼の思考の進め方および言葉の選び方はどうしてもはじめの神経を逆なでしてくるのだ。
 だからその怒りにまかせ、はじめは埒があかないとばかりにくるりと回れ右をし、彼のいないところに向けて歩きだそうと試みる。
 しかしそれは成功しなかった。勢いよく回れ右する為に少しふわりと浮いたはじめの手をがしりと亮が掴んでしまったのだ。
 しかも掴んだ手をぐいっと引いてはじめを腕の中にすっぽり収めながら、その耳元でほんのり甘く、ねだるようにこう言ってきた。
「ねえはじめちゃん、お菓子ちょうだい?」
 その瞬間、言葉を発する為に生じた吐息が、はじめの耳を微かにかすめた。その感触に、はじめはびくりと大きく固まる。
「!!」
 心臓に悪いとはこのことだ。いくらこんなことに少しは慣れてきたとはいえ、まだまだ恋愛初心者なはじめにはリアルに恋人の距離を意識させるその行動は刺激が強すぎるのだ。
 しかし女のプライドというより、自分は正真正銘この男の彼女なのだからというプライドでお決まりの鼻血は踏み止まり、ある意味先程亮がしたのと同じように彼の言葉の中に揚げ足を見つけ、それを正義としてふりかざした。
「あたしがお菓子なんて持ってる訳ないでしょう?!お菓子買うカネがあるんだったら、米か野菜かお肉買うわよ!!」
 事実はじめが家計を管理する岡野家ではお盆などに仏壇に供えるお菓子などを除いて年間にお菓子に費やされる費用は0円である。お菓子は一時舌を楽しませ、心を楽しませてくれるかもしれないが、同じ金額のご飯やおかずにくらべると全然お腹を満たしてはくれないからだ。
 そしてそのことを亮も知っているはずである。なんだかんだ言ってはじめが彼の部屋に入り浸るようになったのと同じくらい、彼も岡野家に入り浸るようになり、家族全員から家族のように思われるようになっているのだから。
 なのにそんなことをいう亮に、はじめは彼の望みが本当はお菓子ではなく『いたずらすること』だと悟り、それを封じる為、先手をとってそう言い切り、いたずらすることは不当だとそう示唆してみせたのだ。
 だがそんなはじめの言葉に、亮は少し首を傾げた。
「え?でもはじめちゃん、今、お菓子持ってるっていうか、食べてない?」
「───え?」
 確信の口調でそう言われ、はじめは思わず鼻じろみ、思い当たる。
「あっ!!」
 確かに指摘の通り、現在進行形ではじめは飴を食べていたのだ。弟達がお菓子をたかりまくって恥ずかしい思いをしたその時、その場に居合わせた女性ADさんが『お姉さんっていうのは大変ね、御苦労さま』と、キャラメルに近いような触感の甘いそれを1つくれ、それを口に含んだままでいたのだ。
 たかが飴1つであるが、はじめにとってそれは貴重な食料であり、貴重な嗜好品である。なのではじめは口の中にそれを入れてからずっとただ口の中に含んだままで、微かに溶け出してくる甘さを飴を口に入れてからかれこれもう30分ほどじっくりと楽しんでいたのだ。
 その、口に含んでいるはじめでさえ忘れかけるほどに小さくなった飴の存在を亮は感じ取ったのだろう。
「あっ、あのね、江藤さん、これはね───」
 だからはじめは亮に向かい、確かに食べてはいるが1つっきりで、あげられないのだとそう告げようとした。しかしそれを亮は遮った。
「ちょうだい」
 至近距離でそう言われた瞬間、はじめの身にとんでもないことが起きていた。
「───!」
 すぐ近くにはあったが、重なってはなかったはずの亮の顔が、自分のそれと重なりあい、しっかりと触れあっていたからだ。
 しかもただ触れあうのではない。言い訳しようとしていた時だったから、微かに開いていた上唇と下唇の間から彼の舌がはじめの口の中へと入り込み、探るようにうごめきはじめたのだ。
「…え…っ…えとう…さん…!!…」
 重なり唇の間、彼の舌によってからめとられ、満足に自分の舌が動かせない状態でなんとか彼の名前を呼ぶ。
 しかし遠視気味の彼にはほとんどはじめの顔など認識出来ていないに違いないその距離で、亮は一瞬だけ目を開いてそして目を細め唇を重ねたまま笑うと、今度こそその目をしっかり閉じて、はじめの口の中を侵す行為に激しく没頭し始めた。
 はじめはその行為の激しさと、口付けの合間に亮がみせた自分だけを求め、自分だけを虜にしたいというそのどん欲さにすべてを奪われ、抵抗することすら出来ずにされるがままになってしまう。
 多分、一応このキスはコンセプト的には『飴をはじめから貰うというか奪う為』に行われているキスなのだろう。酔わされ、狂わされ、しどろにされていく感覚の中で、最初から自分の口の中にあった小さな飴が、亮と自分の舌が重ねられ、擦られ、からめられていくことによってますます小さくなっていっていることはわかるから、だから多分そうなのだと思う。
 けれど2人の熱で溶かしているのだから飴のカタチなどもうほとんどない。欠片とすらいえないものすらもう存在していないのだ。
 なのに亮からのキスは終わらない。───いや、終われない。自分が自分で信じられないと思う程、この行為と亮に溺れてしまい、何がなんだかわからない。
 だから口付けの合間に亮が漏した一言にも答えなんか出せそうになかった。
「───ねえ、はじめちゃん、これって『Treat』かな?それとも『Trick』かな?───」
 ───多分どちらでもいいのだろう。
 そして事実どちらでもよかった。


   THE END.   






 超ありがちなハロウィンねた(苦笑)
 でもリアリストなはじめを酔わせる亮が書きたくなったので欲望にまかせて書いてみました。
 昔はマイナーなイベントだったのに、最近すっかりメジャーになって嬉しいです!!おかげで大好物のパンプキンパイとパンプキンプリンがいろんな店で売られるようになってくれたのでvvああ、ハロウィンだいすきっ!!


 
 

 
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