はじめちゃんが一番! 亮×はじめ


愛のかたまり - ai no katamari -






 

 きっかけは『WE』の『W』である和田瑞希が、日本のトップアイドルであるという肩書き関係無しに挑んだ世界で5本の指に入ると言って過言でない大映画監督のオーディションで、見事助演男優の座を手に入れたことだった。
 その関連でその監督の耳にその相方の歌声が届き、それが監督に気に入られたことで和田瑞希が参加することになった作品のエンディングに流れる主題歌を、江藤亮がソロで歌うことになったのだ。
 そしてその映画及びその主題歌は大ヒット。一躍WEは日本中の女性達の恋人から世界中の女性達の恋人となった。
 当然そうなると仕事先はグローバルワイド。近日その映画がDVDとして世界一斉発売されるのに合わせてのキャンペーンも兼ねた、日本人アーティストとしては初めての、アジア圏にとどまらない、文字どおりの世界ツアーを開始し、日本のみならずその人気はますますうなぎ上りだ。
 そのことに対し、WEの片割れであり、世界中の音楽関係者から100年に1人の逸材と絶賛される歌声を持つ江藤亮の恋人である岡野はじめは素晴らしいことだと思っている。
 彼女はWEの(というか和田瑞希の)世界一のファンだから、彼等が認められるのが嬉しい。もっともっと多くの人に輝いている彼等の姿を見て欲しいと思ってしまう。
 だが同時にそれとは別の感覚で、寂しさを感じてもしまっていた。
 それまでだって日本一多忙なアイドルと、同じ事務所に所属するユニットのステージシスターもやっている女子大生として、一緒に過ごせる時間がとても少なかったのだ。ひどい時など1月の間で顔を合わせたのがテレビ局の楽屋廊下ですれ違って挨拶しただけなんてこともあったほどだ。
 それがWEの世界進出でますます顕著になってしまった。はじめのケイタイは国際電話を受信出来ないし、自宅の電話には留守録などついていない。だから会うことはもちろん声すらも聞けない状態が続き、2人の間を繋ぐものは、はじめからはその文字数ならタダだからということで交す192文字以内のメールそれのみだった。
 だがやっぱりそれだけではやはり寂しい。クリスマスという、街がまるで恋人たちの為に色付きはじめる季節ならなおさらだ。
 だからつい───本当につい、はじめは衝動買いしてしまった。
 自身のことには無頓着なのに、それでもアイドルの身だしなみとして彼が微かに纏っている香水の小瓶をワゴンセールで税込み1000円で売っているのを見かけ、ついついそれを買ってしまったのだ。
 それを手にはじめが向かったのは恋人の特権としてカギを貰った亮のマンションだった。6畳が2間の狭い岡野家で香水など降ろうものなら、たちまち何をしたのかバレてしまう。
 そんなこと────江藤さんに会えなくて寂しいから、せめて同じ香りに包みこんで貰おうなんて考えてしまったことを、弟たちに知られてしまうなんて恥ずかしくて耐えられないから、だからその誰にも言えない慰めをした後その香りを洗い流すその為にも彼の部屋が都合よく、そこで実行することにしたのだ。
 そうしてはじめが来だしてから昔よりは少しはマシになったが、それでもまだまだ殺風景なリビングではじめは香水を取り出し、空気中に向けて噴射した。途端、甘いというより爽やかな、だけど微かに野性味を感じさせる香りが広がり、そして柔らかく降り注ぐ。
「?!」
 それを文字どおり全身で感じたはじめは、次の瞬間には香水が目に入るのをさける為に閉じていた目を大きく見開くと、もう一度、強く香水を噴射した。
 だがそのことでより鮮やかに香った香水の香に、はじめは唖然とする。
「……どうして?!…」
 思わずつぶやき、手の中にある小瓶を凝視する。自分が知っている───感じたい香りと、今自分を包んでいるそれがまったく違うものだったからだ。
 香水に疎いはじめにはそれがどう違うか具体的には表現できない。
 けれどじゃれつくように、甘えるように、だけどそれでいてしっかりはじめを守るように抱きしめてくれる亮の身体から匂っていた香りはこんなものでは絶対なかった。こんな、無機質で、つまらない香りなんかじゃなかった。もっと深くてあったかくて、泣きたくなるほど優しい香りだったはずだ。
 だが瓶のサイズこそ違えども、何度見てもはじめの手の中にあるそれは、亮が愛用している香水と同種のものだ。
 だからふり方が悪かったのかとか、もっといっぱいふらなきゃ同じ香りにならないのかと思い、はじめは1スプレーで十何円にもなってしまうという、普段のはじめならぜったい忘れない損得勘定の計算も忘れ、後もう1回、2回と、先程までと同じように宙に向かって噴射した。
 だがやはり匂いが強くなっただけで、先程感じたそれとまったく変わらなかった。
 なので思わず絶叫する。
「なんでなのぉ〜?!なんで江藤さんからするのと同じ匂いがしないのよぉ〜!!」
 それこそ清水の舞台から飛び下りる気持ちで、約1月分の自分のお弁当のおかず代を使い込んで買ったのだ。それなのに、全然違ってるなんて───全然違う香りだなんて、そんなの絶対あり得ない。あんまりだ。
 だからはじめはそのショックのあまり、がくりと肩を落とし、へなへなとその場にへたりこんでしまった。
 だがそんなはじめの上に、香水ではない、違うものが降り注いだ。
「そりゃそうだよ、はじめちゃん。『俺自身』の匂いがないのに、俺からするのと同じ匂いがするわけなんかないじゃない」
「・・・・・・・・えっ?!」
 一瞬、ではなく、数瞬の空白をおいた後、はじめは大きく目を見開いて絶叫した。
「えっ、江藤さん?!?!?」
「うん、そう。」
 あまりにはじめがびっくりしてるというか、その目を疑っているような表情で振り返り見上げてきたから、亮はゆっくりこっくりそう頷き、それからからかうように問いかけた。
「それともはじめちゃんには俺が幽霊にでも見えるの?」
「バッ…!!」
 途端、込み上げてきた怒りの感情に顔中真っ赤にし、はじめは亮をどなりつける。
「ふざけないでよ、江藤さん!確か今日は韓国のハズでしょ?それなのにどうしてあんたがここにいるのよ?!」
 はじめがM2&WE本人らから聞いていた予定では昨日今日明日と韓国で、明日の夕方には上海に移動し、またその翌日には今度は香港。世界ツアーの全行程を終え帰国するのはあと半月先のハズだ。
 だがそこまで考えて、はじめの顔から血が引いていく。
 なのにどうして亮がここにいるのか?まさかツアー及びキャンペーンを中止して帰国せざるを得ないような事態が起きてしまったのか───。
 考えても答えが出ない想像にはじめが蒼白のまま亮の顔を見上げると、そんなはじめに対し、亮はあっけらかんと返答した。
「はじめちゃんに会いたかったから」
 だがそんな、普通の乙女なら鼻血モノの悩殺フレーズははじめには通用しない。
「・・・・・はい?」
 と、時を止め、一瞬我が耳を疑い、亮に向かって問い返す。
「だから、いったいどうして───」
「だから、『はじめちゃんに会いたかったから』」
 亮は同じ言葉を強調しつつくり返し、その後にことのあらましを補足した。
 確かにはじめの記憶していたとおり、今日亮は韓国で仕事だった。だが予定されていたイベントの開始時間が変更されたため、今日いきなり夕方から明日の昼すぎまで半日強の一日弱オフになったのだ。そして韓国から日本までは飛行機で片道約2時間。地方から地方へ移動するのより───下手して渋滞に巻き込まれれば、都内から都内を移動する時間より短いくらいの時間しかかからない。
 だからせっかくのオフだから羽目を外し過ぎなければ好きにしてていいと言われた亮は、本当に好きにして、はじめに会う為だけに日本に帰ってきたというのだ。
 その普通なら到底あり得ないけどおそらく確実実際の話にはじめは唖然とし、それから断言した。
「バカじゃないのっ?!」
 信じられない、信じられない、信じられない。呆れてモノも言えないとはこのことだった。
 明日の朝一の便でソウルにとんぼ返りしなければならないのだから、到着から出発まで実質日本にいられる時間はたったの11時間ほどしかない。しかも今の亮ほどではないが、はじめも多忙な生活を送っている。だから『会いたい』と帰ってきたって、会えたかどうだかわからないのだ。
 それなのにいくら近い、そして急なことだったといえど、はじめの予定も聞かずわざわざ海外からバカ高い飛行機代を使って戻ってくるなどはじめの常識からはあり得ない。
 いくら会いたいと思ったからとはいえ───会いたいと思ってくれたからとはいえ、そんなことはじめの常識からはあり得ない。いくら会いたいと───会いたいとそう思ってくれたとはいえ───。
 だからはじめは胸をつまらせ、ぎゅっと手を握りしめた。
 だって多分理由はそれだけではないのだ。先日、亮が家に電話をくれた時、自分は家に居なかった。その代わりに弟たちが居て、強がってはいるが自分が亮と会えなくて寂しいと思っていることを彼に言ったみたいなのだ。だから多分それを気にして、こんな無茶して帰ってきてくれたのだと思う。
 そのことがはじめには申し訳ない。申し訳なくそして切ない。
 英語が多少出来、通訳もちゃんとついているとはいえ、それでも言葉や文化が違う国を次々と巡り、そこで仕事をするなんて、推測することしか出来ないが、相当精神的にも肉体的にも負担になっているに違いない。なのに心配をかけ、無理どころか無茶を重ねさせ、帰ってこさせてしまうなどあっていいことではない。
 しかも、申し訳なく、すまなく思いながらも同時に、自分はそのことを───たったわずかな時間でも自分の側に居てくれる為に彼が戻って着てくれたそのことを、すまないと思うのと同じくらい嬉しく思ってしまっているのだ。
 そのことが何よりはじめには許せない。これでは自分は世界の恋人『江藤亮』の恋人失格だ。瑞希とは違う意味での彼のパートナーである資格がない。
 だから、ついそんな自分への怒りもこめて、先ほどの発言をしてしまったワケだが、そんなはじめの心中をはじめが纏った怒り以外の感情から察してか、亮はこう返答した。
「かもね。でもはじめちゃん、前から思ってたんだけどさ、はじめちゃん、『会いたい』と思ってるのいっつも自分の方だって───自分だけだって、そんな風に勘違いしてない?」
「え───」
 いきなりのその言葉にはじめが小さく目を見開くと、亮はその瞳に己のそれを重ねながら、事実として言葉を繋ぐ。
「それ違うからね。っていうか、絶対俺の方がずっとはじめちゃんに会いたいって───ううん、はじめちゃんと一緒に居たいと思ってる。それこそずっと一緒に───いっしょう、ずっと、ずっと一緒に」
「江藤さん───」
「だからね、はじめちゃん」
 その言葉と瞳に息をのみ、ただ名を呼ぶことしかできないはじめに向かい、亮はさらに言う。
「こんな俺だけど呆れないでね。はじめちゃんが好きすぎて、自分でもバカだってわかってること、簡単にやっちゃう俺を嫌いになったりしないでね。もしそれではじめちゃんから嫌われたりなんかしたら俺、明日から生きていけないから」
 事実として断言されたその言葉に、はじめはぽつりと漏す。
「───バカ」
 だがそれがはじめ特有の照れ隠しだとわかっているから、亮は嬉しそうに笑い、はじめをぎゅっと抱きしめた。途端はじめを包み込んだ優しい香りに、はじめはそっと目を閉じる。
 甘くてすっぱくて優しくて悲しくて、だけど他のどんなものよりはじめを安心させてドキドキさせる香りと熱に、はじめは素直に翻弄される。自分が欲しかったのは───自分が欲しいのは、これだけなのだ。
 そのことをあらためて自覚したはじめは、しばしの間それを満喫した後、思い出したように唐突に言った。
「これあげるわ」
 そう言いつつ、亮に差し出すというより突き出したのは、はじめが購入した亮が使っているのと同種の香水である。
「あたしが持ってても仕方がないし、いらないから江藤さんにあげる」
「え?いいの??」
 その時点で必要不必要に関わらず、人にあげる目的以外でお金を出して買ったモノをはじめが決して手放さないことを知っているから亮は思わずそう問いかけたのだが、その言葉にはじめは断言した。
「うん、いいわよ。ちょっと使っちゃってるけど、クリスマスプレゼント」
「ハハッ、ありがとう」
 笑って受け取り、続けて亮は問いかける。
「じゃあ俺もはじめちゃんにお返ししなきゃね。何がいい?」
「別にいいわよ」
「けど」
 貰ったからというより、あげたいから亮はいらないと首を横に振ったはじめの言葉尻に追いすがったが、そんな亮に対し、はじめはこう返答した。
「だってあたしもう充分すぎるほど貰ったもの。だからもういらないの」
 そう言って笑ってみせたはじめのカオは、満ち足りた、至福のそれそのもので、その笑顔に亮は慌てた。
 はじめはちゃっかりものでしっかりもので守銭奴だ。だから人から貰えるものなら何だって喜ぶが、これほどはじめが嬉しそうにしている姿を亮はこれまで見たことがない。そして自分には彼女に物を贈った覚えがない。
 だからいったい自分以外の誰がはじめをこれほど嬉しそうにしたのか気になり、思わずはじめの二の腕を掴んだ。
「え!いつ?!いったい誰から何貰ったの?!」
 だがそんな亮の必死の問いかけにはじめは答えない。
 ただその代わりに自分自身を亮に向かい差し出しながら、心からの言葉でこう囁いた。
「クリスマスなんかいらないわね、あたしとそれに江藤さんには」
「??」
 だがその意味不明で、聞き様によっては投げやりな言葉に亮はますます目を白黒させる。
 そんな亮をはじめは笑って、両腕をまわしてギュッと抱きつき、その胸に頬をすり寄せた。きっとでなく絶対にアイドルでない、ただの江藤亮の時のこの人は自分だけの人なんだと信じることが出来たから───。
 そしてそんな幸せそうなはじめの様子に、疑問だらけになっていた亮も何だかワケがわからないまま、これでいいんだとそう理解し、できる限りの優しさと今こうしていられることで感じる嬉しさではじめをぎゅっと柔らかく包んだ。もちろんその根本である、はじめを愛しいと思う心と共に───。
 だからその優しい抱擁にはじめはますます幸せになり、そして幸せそうに笑った。







                                 THE END.






 やったら前置きが長い短編です。でも長くなってしまったのには理由がありまして、この設定がこれから書く(かもしれない)はじいちのシリーズでの私の基本設定となっているからです。ちなみに時期としては原作終了2年後の、はじめが大学3年の設定でこの話は書いてます。
 タイトルはKinki kidsの名曲から、っていうか、この話そのものがキンキの歌をテキスト化したものです。
 聞いたことない人はぜひとも聞いてみてください!!完全亮×はじめにおけるはじめちゃんソングです。

                                


 
 

 
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