ヒカルの碁 和谷×しげ子


新しい季節 - atarasii kisetu -





 


「どう?なかなかイケてると思わない?」
 そう言って真新しい制服を身に纏い、くるりと回ってみせたしげ子はまるで華のようだった。見られることを至福とし、だけどその反応如何ではすぐさま散ってしまいかねないような、そんな不安に揺れる華。
 だからそんなドキドキを少しは解消出来たらいいと、和谷は頷きそして笑った。
「うん、イケてるよ、しげ子ちゃん。似合ってる」
 途端弾けた輝く笑顔。
「ホントにっ?!」
 そう言い、目を輝かせるその様は、ますます持って華の様。
 だから和谷は目を細めつつ、それで相違ないことをもう一度、けれど今度はからかった口調でしげ子に対して告げた。
「うん。残念なことに、これが本当だったりするんだな」
「もうっ!!]
 途端しげ子の顔はふくれる。
「そういう時は素直に誉めてよ!『綺麗だ』とか『かわいい』とか、それとか『当社比5割り増し』だとか、いくらでも言い様あるでしょう?」
 だが2人の関係上、その方が言葉に真実味を感じたのか、しげ子は軽く両手をぎゅっと握ってポカリと攻撃しながらも、それでも嬉しそうに笑っている。
「ゴメン、ゴメン!」
 だからまったく痛くない攻撃に痛くて仕方ないフリをしながら、それとはまったく別の意味で和谷はその目を細め、自分にじゃれついてくるしげ子の姿をそっと窺った。
 もうかれこれこの少女と知り合ってから10年近くになるだろうか。出会った当時まだたったの5歳かそこらだったしげ子は、自分の兄よりも歳の近い和谷に親近感を持ってくれたのか、その年頃ならありがちの人見知りをまったくせず自分にしっかり懐いてくれた。そしてそれ以降自分達は師匠の愛娘と師匠の内弟子の関係というより、その領域を遥かに越えて兄妹もしくは友達のようにこれまでの歳月を過ごしてきていた。
 なのでそんな彼女の晴れ姿────あと10日足らず後に高校入学を控えた今日届けられたあつらえられたばかりの制服姿になんだか感慨深いものがある。
 何しろまさかこんな日がくると思ってもいなかったのだ。師匠の弟子になりたくて緊張しまくって門を叩いた自分をそのくったくのない笑顔と奔放さで中へと導き、その存在で師匠や他の兄弟子達と自分を繋いでくれた彼女に、高校に入学する日がくるなんて────というか、その日をここ1、2年、とてもとても楽しみにし、待ち続けてしまうなど、予想出来ていなかったのだ。
 だからこそ、和谷はその感慨をただそれだけで終わらせない為、しげ子に対してこう言った。
「おわびに入学式終わったらさ、しげ子ちゃんが行きたいトコ、どこにだって連れてってあげるよ。もちろん食事にケーキ付」
「ホントに?!」
「うん」
「じゃあ『不二家』がいいっ!!」
 しげ子は即答する。
「わたし、『不二家』がいい、『不二家』に行きたい!」
 だがその返答に和谷も即答で否定した。
「あ、『不二家』はダメ。『不二家』だけはダメだから」
「どうしてよ?!」
 『『不二家』ならいい』ならともかく、『『不二家』だけはダメ』というのは、納得いかない。だから噛み付くように問いかけたしげ子に向かい、和谷はあっさりとこう言った。
「だって不二家は師匠が奥さんにプロポーズした思い出の店だろ?だからさ『不二家』はその時のためにとっときたいんだ。いつか───そうだな、3年とか5年後かな?その時にしげ子ちゃんにプロポーズするその時まで」
「──────え?」
 その、まったく思ってもみなかった言葉にしげ子はぽかんと口をあけて固まった。
「わっ、和谷くん…?!───」
 言いながらその意味を確信しつつあるのだろう。だからか自分の名を呼びながら、一音ごとに赤くなっていくその様を見守った和谷は、追い討ちをかけるべくこう言った。
「だからさ、今回は『不二家』なしっていうことでお願い。それ以外の店ならどこだって───俺がしげ子ちゃんに告白して、しげ子ちゃんに恋人になってもらうに相応しい店ならどこだって一向にかまわないからさ」
 そうしてそのついでとばかりに掠めるようにして奪った口付けに、しげ子はますます真っ赤になって固まった。
 そんなしげ子の姿にいつの間にかに芽生えていた彼女への恋心が必ず成就すると確信し、その歓びからあふれてくる笑みを和谷は浮かべつつ、本音半分追い討ち半分、彼女に向かってつぶやいた。
「だから早く、一刻も早く、オトナになってね?しげ子ちゃん。浮気はもちろんしないけど、君を手に入れるのをいつまでも我慢出来る自信、俺には全然まったくないから」
 そうしてニコリとわらってみせた、子供のようなオトナの笑顔に、しげ子はあらゆる意味でふるえながら、精一杯に頷いてみせた。
「うっ、うんっ、わかったよ、和谷くん」
 こうしてそれからその直後、新しい季節の始まりに生まれる予定の恋人同士は、その場でとりあえず初めての抱擁と2度めとなるキスをした。ついばむような、触れあうだけの、甘くて切ない口付けを───。
 

 



                                 THE END.





 夏休み企画の再録です。何故だかいきなり『ヒカルの碁』の和谷しげです。このカプ大好きなのです、わたくし。
 和谷くんはしげ子ちゃんが中2の中頃に彼女を好きなことを自覚するんですが、せめて高校にあがるまで待とうと自分にいいきかせていた、という設定。なにしろ師匠の娘ですから、簡単に手を出したり別れたりも出来ませんから、本当に自分はしげ子ちゃんが好きなのか?!と自問する意味もあったのです。でも気は変わらず、ますます好きになっている自分を自覚したので彼女に告白、というワケです。予定より10日ほどフライングしてしまってますが(笑)
 それにしてもたまにはこういう男攻め、オトナ攻めもいいですな!脳内のたまってたアヤシイセリフが使えていい気分ですvv


 
 

 
 ← OTHERSトップに戻る