|
死神にとって人間などタダの道具───いや、エサか薬にすぎなかった。思い入れる必要などない。ただ自分が消えたくないと思うなら、その命が尽きる前に、その寿命をいただかせてもらうたったそれだけの存在。
だからレムは人間に何の思い入れなどなかった。ただ思い入れはなかったが、彼等が我々を『死の神』とよんでいるのだから、それならせめてそれに乗っ取ってやるくらいはしてやってもイイかと思い、糧となってもらう人間を好き嫌いで選ぶのではなく、地上を覗き込んでから13番目に目に映った人間をデスノートに書き込むとそんな風に決めていた。それがたとえ3日後に死ぬ人間だろうと、生まれたばかりの赤ん坊だろうと何の遠慮も選別もなしにだ。
情けなどもっても仕方がないし、情けなど持てば自分が死ぬ。だからそこに私情など介入させるつもりはなかった。
しかし目の前で1人の少女に入れあげた仲間が塵となり死んでいくのを見、それまで何に関しても基本的には無関心でいることが出来た自分の心の内側に、何かが芽生えてしまったことをレムは自覚するしかなかった。───そう、それはまるで死んだ死神ジェラスの想いが、自分に乗り移ったかのように。
だから本来なら死神大王に返すべきノートをジェラスが心から愛した娘ミサに渡してしまった。
本当ならミサの側に行き、そして言葉を交したかっただろうが、そうするためには自分の持っているノートを彼女に渡さねばならず、渡せば人から命を吸い上げることができなくなって、結果死ぬしかなくなるのがわかっていた為、そうすることが出来なかったジェラスに変わり、元々ジェラスの物であったノートを自分の物にすることで、ジェラスがそうしたかったように、ミサの側に舞い降りて、ミサと共に生きる未来を自ら選択したのだ。
だが実際そうするには、ジェラスが死んでしまってから1年あまりの歳月が経過してしまっていた。というのは、もしジェラスが死んだ直後にノートをミサに渡してしまえば、確実に彼女はそのノートを使い、自分の両親を殺した男を殺すに違いないと、そう思ったからだ。そしてもしそんなことをすれば、極限まで追い込まれていたミサの精神状態から考えれば、彼女はそれを機に完全に壊れ、ジェラスやそして自分がひかれた彼女ではなくなると思ったからだ。
だから自分が自分が決めたルールや死神の掟に従っているように、ミサの両親を殺した男の運命も人間界のルールである裁判に任せようとそう思った。それでもし死刑が確定したならばそれで放置すればそれでいいし、もしそうでないというのなら自分が男を殺した後にノートを彼女に渡せばよい。そうすればどちらにしても彼女があの男に手を下すという事態だけをさけることが出来るからだ。
そうしてミサを見守り、その男の運命を見守っていた時、思わぬことが起きた。ミサを殺した男を殺す人間が現れたのだ。本人がそう名乗ったわけではないのだが、いつの間にかにキラと呼ばれ、それがすっかり定着した、神よろしくデスノートを用い犯罪者に死の制裁を与える人間が。
そのキラにミサはひかれた。その当時はそのキラが男か女かすら彼女は知らなかったのだが、どちらでも関係ないと崇拝し、そしてその頃にレムが自分の目の前に現れ、キラが人を殺す手段がノートに名前を書くという方法だと知った時、彼女はますますキラに惹かれ、そして実際のキラに───月に会った時、彼女の心は完全に囚われてしまった。
そのことを後にレムは後悔した。それでミサが幸せならいいと思っていたのだが、月はあまりに危険な存在だった。すべてを捨てて月を慕うミサを己の目としか見ない、しかも、キラの正体が自分だとしているミサを隙あらば殺そうとさえ考えている。
それに月を愛してしまったミサはそのことで同時にキラを追う捜査官Lに目をつけられ、捕らえられてしまった。
それもとりあえず月の考えた策によって一旦はキラの容疑者から外れ、解放して貰えたが、その後もまた月の策によって利用されつづけているミサは今度こそLと呼ばれている男から逃れ用のない疑いを掛けられ、最大のピンチに立たされている。そしてそれを救う為にはキラである月というよりキラでもある月の天敵であるレムが命を捨て、Lを殺すそれ以外の方法は残されていないのだ。
そのことを───そうなったことをレムは悔いた。命が惜しいわけではない。そう思うならミサを見捨ててしまえばいいだけのことだ。所詮死神の理屈からいえば人間などただのエサ、それも掃いて捨てるほどいるエサなのだから。
でもそのエサを大切だと思ったのは自分自身───そしてそのエサを、自分が命を捨てねば守れない程追い込んだのも自分自身なのだ。
だからそう思ってしまった自分が───自分が愛してしまったせいで、いつ振り落とされるかわからないシーソーの上にミサを載せてしまった自分が、レムは憎くて仕方がなかった。そんな自分を消したくて、仕方がなくなっていた。
そしてそう思ってしまっている自分に、レムは激しい戦慄を感じる。
きっとあの男は───自分などよりももっと死神らしい人間夜神月は、自分がこう思うだろうことさえ予想し、その心を操ったのだ。
だからせめて、せめて、と思う。自分がLを殺して死ねばあの男はとりあえずこの世に敵を失うだろう。現時点で彼や彼を苦しめるLに匹敵する頭脳の持ち主など何処にも現れてはいないのだから。
だからこのままもう一生───再び彼の目になる為に削ってしまった残り少ないミサの寿命がつきてしまうまでという意味での一生、この世の何処にも彼に匹敵するレベルで彼に抗い、彼と争うような者がでないでくれと、思ってしまう。
もしそんなことになればきっとあの男はまた呼吸するより簡単にミサを利用し尽くそうとする───そして殺そうとするだろう。それだけはどうしても避けたい───避けなければならない。それがせめてで唯一の、自分がミサにしてあげられるたった1つのことなのだから。
だから彼の敵である2つの命を消えさせながら、同時に自分の命も尽きていくその瞬間に、レムは自分も神と呼ばれる身でありながら、それを超越した存在に向かい、生まれて初めての祈りを捧げた。
「───どうかあの男を───夜神月をミサに───」
だがその言葉は崩れいくレム自身の塵に粉々に消され、誰のどんな心にも、まったく欠片も届かなかった。
THE END.
夏休み企画再録、ある意味激しい反則でレム話です。お題の『月』をそのまま『MOON』ととらずに『ライト』と読み替えて書いた、原作の感情補完系SSです。
デスノのキャラは誰も彼もがどことなく哀れなのですが、中でも一番哀れなのがレムではないかというのが私の感想です。(・・あ、メロの方がひどいかな?タカダごときに殺されたんだし。。)
|