いつものことであると言えばいつものことであるが、夜神月の同居相手である弥海砂は、彼女にとっては将来の結婚相手である月に対し、実に唐突にこう言った。
「ねえ月、今日は11月11日だからポッキーゲームをしよう!」
そう言って、差し出すというより突き出してきたのは、赤い箱に入った、今では全世界の大半の国で購入することができる定番のチョコレート菓子である。
女の子の分に漏れず、ミサは甘い物もチョコレートもかなり大好きなのだが、今では日本を代表するトップアイドルに上り詰めた彼女は、プロポーションを維持する為にこういったお菓子をあまり口にしない。
なのに差し入れられたものではなく明らかに自ら購入してきたらしい事実と、それに先行する先ほどの言葉に、月は一瞬目をしばたかせる。
「ミサ?」
もちろんいくら彼が日本一頭の良い人間が集う大学の学生でありながら、顔を知り、その名前を書くだけでその人物を殺すことができるノートを使い、理想の社会を作る為に世界中にはびこる犯罪者達を抹殺しつづけている『キラ』兼そしてそのキラを追う組織の実質的指導者としても活動するという二重どころか三重生活をしている超多忙の身であるとはいえ、コンパなどで定番のポッキーゲームくらいは知っている。
だがどうしてその彼にとっては実に下らない遊びがこの場に出てくるのか、しかも今日それをすることを当たり前のようにミサは言うのか、その理由まではわからない。
なのでその疑問を解決する為、彼女の名前を呼ぶことでその意味を問いかけたわけなのだが、それで返された返答というか解説に、月は思わずとことん呆れた。
「くだらない」
つぶやきつつ、あらゆる意味でそう思う。
ゴロ合わせかイメージ合わせかは知らないが、1が4つ並んだカタチがその形態に似てるからなんて下らない理由で11月11日の今日が『ポッキー&プリッツの日』だなんて、その商品を販売している企業のこじつけではないか。なのにそれが結構世間一般に広まり浸透している事実、そして現実にそれに踊らされている女が自分のすぐ側にいて、恋人ヅラしているその事実がどうにも少しやるせない。
だからその為感じた疲れもあって、ある意味これもいつものように月はミサの提案を即座に却下し、キラ対策本部の仕事をしていた為、つい溜め込んでしまったゼミのレポートをしてしまおうとそれに関する資料に手を伸ばしかけたのだが、そんなすげない月の態度に、ミサはおおげさに声を発した。
「あ〜あ、ホント困ったな〜。なんだかミサ、今無性にノートに名前、いろいろ書きたくなっちゃった」
もちろんここで言うノートとは名前を書くだけで人を殺せるノート、『デスノート』のことである。
そうしてその言葉で月の意識がわずかばかり自分に戻るのを確信しつつ、ミサは続けてこう言った。
「たとえばモッチーとかモンチッチーとか、それに、たとえば夜神粧裕とか」
「?!」
その言葉に月の顔は一瞬だけこわばる。そう言葉を発した時のミサの眼に一瞬狂気が浮かんだのをしっかり確認したからだ。
他の人間ならともかくとして、文字どおりミサは自分からの愛を得る為、そして自分からの愛を独占するためならなんでもする。そしてなんでも出来る力を持っているのである。
自分にはそんなミサを抑すること、つまりいざとならば殺すことは簡単に可能だが、死神の目を持つ彼女にはまだ利用価値がある。今ミサを失うことは痛手であり、そして自分がキラである事実がばれてしまうリスクを高める結果になりかねない。
だからこれまでもしてきたように、彼女を上手く懐柔し、自分の言うことを聞かせる為、些か強い、非難をこめた口調でその名を呼んだ。
「ミサ」
その響きを受けてミサはすぐ様言う。
「冗談よ、冗談」
しかし、その言葉に続けて、こうも付け足した。
「けど、明日になったら本気になるかも」
そうしてニコリと笑ってみせたその瞳にはやはりさきほど同様に純粋な狂気が潜んでいる。
だから仕方なくため息をつき、月はもう一度名を呼んだ。
「ミサ」
そして付け足す。
「おいで」
「うん!」
途端嬉しそうに、じゃれつくようにミサは月の腕におさまる。
そのことにふたたびため息を付き、その息に乗せてこう言った。
「どうすればいいんだ?」
「ちょっとまって!!」
その言葉に慌ててミサは箱を捨てる勢いで中身を取り出し、その中の1本を手にとってそれを月の口元に持って行こうとした。
「じゃあ───」
その動作を月は制する。
「ちょっと待て」
「?」
いざここまで来て『やっぱりやめよう』はないと確信しているミサが不思議そうに月を見上げると、月はミサの腰に手をまわした、導くような体勢で少し移動した。
「ここでいい」
納得してみせたのは寝室のベッドの横だった。同棲をすると決めた時、基本的にモノにこだわらない月が唯一こだわって選んだ、キングサイズのダブルベッドだ。
そこで月はミサをその縁に座らせると、そのミサを覆うように立ったまま片膝をミサの身体の横につき、その体勢で促した。
「さあ」
それが示すところは、その体勢で彼女の望みであるポッキーゲームをしようということである。
だがそのことに今度はミサの方が驚いた。
「月??」
月がミサの性格を知り尽くしているように、ミサも月の性格をそれなりには知っている。だから最初に見せたいやがりまくった態度は理解出来ても、それが一遍しての、この何だかやる気もといヤる気に満ちた態度が理解出来なかったのだ。
だからつい疑問符を浮かべまじまじと見上げてしまったミサに対し、月は口元は笑った、けれど鋭い視線の、男の魅力が溢れたカオで、ただ簡潔にこう言った。
「だって君とするんだから、僕が『ゲームのキス』なんかで、終わらせられるワケがないだろう?」
その言葉に本来主役であるハズのお菓子の存在をすっかり忘れ、ミサは思いっきり月に飛びつき、月を自分に引き寄せる。
「月、愛してる!」
そうして奪うようにされたキスに合わせ、月はミサを強く抱きしめ、その場で組み敷いていく。時に強く、そして激しく、だけれど彼女が望むままの───いや、望む以上の甘さをこめて、彼女を快楽に導いていく。
これはもちろん月にとって愛の行為ではなく、ミサを利用し、自分に服従しつづけさせるための、仕方のない行動だった。
しかし組み敷き、彼女を自分に溺れさせながら月は、彼女が心でも身体でも自分の思う通りに反応しその通りになっていくことに達成感を感じると共に、実にほんの微かだが、同時に別の感情も感じ始めていることに少しずつ気が付き始めていた。
だがそれを認めたらすべてが終わるそんな気がして、それを忘れる為にも、自分の身体の下で狂い鳴く愚かで無知な女に向かい、月は偽りの微笑を浮かべつつ、荒くなっている息に乗せてこう言った。
「愛してるよ、ミサ───僕も君を愛してる」
たったそれだけのことなのに、それだけですべて許されて、それだけで何だか許せる気がした。
THE END.
アホなネタから始まるラブラブと思ったのですが、さすが月さん、そう簡単には甘くなってくれませんでした(苦笑)
私の中で月は死ぬまで(というか死んでも)実は自分がミサを好きだったことに気が付かなかった、という設定です。だからこの作中でも無自覚なつもり、自覚してないつもりで書いてます。
この不毛っぷりこそが月ミサって感じしませんか?
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