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「月〜月〜!!見てみてっ!ほらっ、すっごくかわいいっ、ミサに似合ってると思わないっ?!」
そう叫びながら駆け寄って来てくるりとまわってみせた彼女は、嘘でも比喩でも何でもなく事実として『天使』だった。ただし天使と言ってもかなり異質な、黒でフレアのスリップドレスに、純白の羽を背たろうた、いわゆるコスプレによって作られた、人造による天使だったが。
だが1年ほど前まではただのグラビア上がりの深夜枠タレントでしかなかったが、彼女はその抜群の演技力とコケティッシュな魅力、そして歯に着ぬ着せぬ言動で一躍スターダムをのし上がり、今ではトップアイドルとしてその名をほしいままにしている。
そんな超人気アイドルである彼女の新しい写真集を撮影する為に用意された衣装と小道具が生半可なものであるわけがない。そのどちらもが精巧で、そのどちらもが抜群にミサに似合っており、天使など実在しないという常識と彼女は人間だという知識のその両方を存分に持っていなければ、誰もがその目を疑って、周囲の反応を探るだろうほど、ミサはこの瞬間、その顔に満面の笑みが浮んでいることも手伝って、完全そして完璧な魅力あふれる天使だった。
だがどれほど完璧な天使であっても、それは月には通用しない。だから、どう見ても表面上だけのそっけなさで、月はミサに向かって微笑んだ。
「ああ、すごくよく似合ってるよ、ミサ。本当によく似合っている」
そうしてやっぱりその直後そうなるだろうと思ったとおり、『うれしいッ!』と言って飛びついてきてキスをせがんだ彼女の口をこれ以上騒がれないようにするためにも少し強めに塞いでやる。こうしてやれば彼女は満足して、次の標的と言う言い方は若干おかしいかもしれないが、とにかくこうして綺麗に着飾った自分を誉めてくれる人間を求めてしばしの間離れていってくれることを重々承知しているからだ。
そしてその思惑は大当たりし、月からの褒め言葉と熱列を装ったキスに満足したミサは『モッチーとかにも見せてくる〜』と、パタパタと足音を立てながら、その場を後にしていった。
そうして取り戻した再びの静寂に月は大きく息をつくと、2代目Lとしての活動を再開すべく、一時的にスリープさせていたコンピューターを起動させようとした。
がしかし、そうすることが少し遅れた。というのはデスクに戻ろうとした時足下にミサの衣装から抜け落ちた羽が一枚落ちていたのに気がついたからだ。
神経質というほどではないが、月は結構綺麗好きだ。だから本物の天使の羽だというならともかくとして、所詮作り物のそれでしかない羽など月にとってはゴミでしかない。なのでそれを拾い上げるというより摘まみ上げると、そのままゴミ箱へ直行させようとしたのだが、思わずその手を止めてしまった。というのは、ミサが背負っていた時には純白に見えていたそれが実際は若干黄色味を帯びていることに気がつき、そしてその次の瞬間に、前にミサから聞かされたことがある撮影の裏話を思い出してしまったからだ。
何でも月にはあまりよくわからないが、とにかく一般には『ゴスロリ』と総括されてしまっているが、実際は『ロリ』=『ロリータ』の要素はあまりない『ゴシック系』の服を私服でもよく好んで着ているミサは、それ系の衣装を着てのグラビア撮影をすることが多いらしい。で、その際、より人間味を抜いて人形っぽい写真を取る為に、通常より強い光を放つ、少しだけ青みを帯びたライトを使うのだそうだ。そうすれば肌から日本人特有の黄色味がとんで、より色白に映るから、と。
だがそうすれば当然黄色いモノは色の打ち消し作用で白く映るが、逆に本来白いモノが青味を帯びて映ってしまう。そのため後からパソコンで処理することもあるそうだが、基本白く映って欲しいものは、ライトで色がとぶことを見越してあらかじめ薄い黄色にしておくのだと。
だからこの羽が若干黄色いことには納得がいった。撮影用の衣装の小道具から抜け落ちた羽なのだから、ミサが言っていたような加工が施されているということなのだろう。
だが納得がいかないのは、どうして自分がそんな話を────覚えておく必要など絶対にないそのくだらない話を、彼女が話した一言一句まるごとそのままのカタチで覚えていたか、ということだ。
彼女は────弥海砂は大切な存在だ。他の誰が裏切っても彼女だけは絶対に裏切らないと信じられる、新世界の神となるために必要な、とても重要なパーツだ。けれどそれでも同時にいざというときには呼吸するよりも簡単に捨てられる、ただそれだけの存在のハズだ。
それなのにどうしておしゃべりな彼女が一方的にしていたこんな話を自分は覚えていたのか────話どころか、その時していた格好やアクセサリー、塗っていたルージュの色さえ自分は鮮明に覚えているのか?この話を聞かされた時、確か自分はすごく眠くて、おやすみのキスをしてやることさえおっくうでそのまま寝てしまったら次の朝ミサから散々苦情を言われまくったほどだというのに────。
でもそこまで考えて、月はそれ以上考えることをやめた。『何故覚えていたか』など必要無い、『ただ覚えていた』で充分だと思い直したからだ。
だけどただそう思うのと同時にもう1つつまらないことを思ってしまったので、その為に拾った羽を捨てずにデスクの上においてあるペンたての中に突っ込んだ。
きっと自分のことに関しては限り無くめざとい彼女のこと、こんなところにこんなモノがあることをめざとく発見するだろう。そしてどうしてこんなところにこんなものがあるかと必ずそのワケを問うてくるハズだ。そうすればいつものように澄ましてそして優しい顔で言ってやるのだ、『これは僕のお守りだよ』と────『僕の天使が僕にくれた、僕を支えるお守りだよ』と。
その時の光景が月には目に見える様だった。
きっと彼女はいつものように全力で駆けてくるだろう。駆けるだけの距離などないのに、全力で自分の胸に飛び込んでくるだろう。そしていつものように、けれどこれまでくり返されてきたどの瞬間よりも強い気持ちで自分に対する愛と忠誠をその全身で示すだろう。
それを思うと月は自分の口元が微かに緩むことをどうしても押さえることが出来なかった。
本当に愚かで盲目な、だけどだからこそ極上な、この荒みきり汚れた世界で自分の為だけに存在する、自分の為だけに死んでいく女────自分専用の自分だけの女。
だから今はまだ小さいけれどそれでも完全なる世界の支配者として、月は神の顔で笑った。
自分には天使がついている────愚かでそして美しい、バカな天使がついている、だから絶対大丈夫だと。いったいそれが何を指してか、いったい何に対してなのか、そんなこともわからぬままに────。
THE END.
月視点での『月×ミサ』です。同棲1年目くらいの、空白期間のころの設定です。なにげに仲良く暮らしてたみたいだから、こんなだったんじゃないかな〜ってか、『こうだったんだろ?!』といろんな方面に向かって脅しを掛けたい感じです。
来年はスピンオフで多分『L×ミサ』イヤーなので、今の内に月への愛を再確認vvこの不毛さが素敵です(ってか、月の自分自身の気持ちへの鈍感さが)
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